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【国際】環境ジャーナリスト、Verraの森林破壊回避カーボンクレジットを批判。Verraは強く反論

 環境ジャーナリスト団体SourceMaterial、英紙ガーディアン、独紙ディー・ツァイトは1月18日、アムステルダム自由大学のタレス・ウェスト助教や、ケンブリッジ大学のアレハンドロ・グィザール・コウチーニョ博士課程大学院生らの書いた論文を基に、国際的なカーボンクレジット基準管理団体米Verraが発行しているREDD+プロジェクトからのカーボンクレジットのうち94%が「無価値」と報道。Verraはすぐさま「計算がおかしい」と激しく反論した。

 Verraは、国際的なボーランタリー・カーボンクレジット(VCS)の規格「VCS」の管理団体として知られている。もともとVCSの初版は、投資助言会社Climate Wedgeとパートナー会社Cheyne Capitalが2005年に策定したが、2006年に世界経済フォーラム(WEF)、The Climate Group(TCG)、nternational Emissions Trading Association(IETA)に規格を譲渡し、管理者が移った。その後、WBCSD(持続可能な開発のための経済人会議)が運営に加わり、2007年に管理団体としてスイスにVCS委員会を創設。2008年に米ワシントンDCで法人化され、2018年に法人名がVerraとなった。

 今回の議論の対象となっているREDD+は、もともと2005年の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第11回締約国会合(COP11)の中で提唱された「途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減(REDD)」に由来。2007年のCOP13で、森林保全、持続可能な森林経営、森林炭素蓄積の増加の概念も盛り込んだ単語して「+(プラス)」マークが付いた「REDD+」が確立した。2015年のCOP21で採択されたパリ協定ではREDD+の実施と支援が奨励され、特に発展途上国での実行が期待されている。

 Verraは、森林破壊回避型のREDD+プロジェクトに対し、VCS認証のカーボンクレジットを発行するメソドロジーを策定済みで、すでにたくさんのクレジットが発行されている。今回ガーディアンらの報道では、Verraの姿勢により、現在市場で流通しているカーボンクレジットの30%以上が森林破壊回避プロジェクトで創出されたものだという。一方、Verraと同じく国際的なカーボンクレジット基準管理団体のゴールドスタンダードは、REDD+からのクレジット創出は原則認めておらず、森林分野では植林・再植林のみクレジット発行対象としている。

 REDD+に対しては、アムステルダム自由大学のタレス・ウェスト助教や、ケンブリッジ大学のアレハンドロ・グィザール・コウチーニョ博士課程大学院生が2020年から発表した論文の中で、REDD+から発行されたクレジットは、実際の理論値に比べ、創出量が多すぎると指摘してきた。

 そこで今回、ガーディアンらは、9ヶ月間の調査の中で、タレス・ウェスト氏や、アレハンドロ・グィザール・コウチーニョ氏の調査手法を活用し、Verraの発行したクレジットを調査したところ、実際には6%分程度の削減効果しかないという結果が得られたという。

 ガーディアンらの報道記事では、これらの調査結果とともに、「企業は虚偽の主張をし、カーボンニュートラルでないにもかかわらず、罪悪感なく飛行機に乗れる、カーボンニュートラルな製品を購入できると顧客を説得している」としたカリフォルニア大学バークレー校のカーボン・トレーディング・プロジェクト代表のバーバラ・ハヤ・リサーチフェローの言葉を紹介し、カーボンクレジットそのものや、カーボンクレジットを使う企業に否定的な見方を示した。二酸化炭素排出量取引市場運営スタートアップの米パチャマにも矛先が向けられた。

 これに対しVerraは同日、反論をホームページに掲載。SourceMaterialらの報道について、「森林破壊を引き起こすプロジェクト特有の要因を考慮しない『合成コントロール』または類似の方法を用いた研究に基づいている。そのため、これらの研究はREDDプロジェクトの影響を大幅に誤算している」と主張し、「失望している」と表現した。

 Verraの説明によると、合成コントロールは、「共変量」と呼ばれる森林減少に影響を与える複数の変数に基づき、ベースラインとプロジェクトによるコントロールシナリオを比較し削減ポテンシャルを算出しているが、この手法では実際の地理的要因が効果的に考慮されないという。そのためVerraは、実際の地域毎のデータを重視するアプローチを採用している。

 Verraは、SourceMaterialらの報道記事が発表される前に、直接ジャーナリストから協議を受けており、「誤算」だと説明したことも伝えている。その事実は、SourceMaterialらの記事でも触れられているが、誤算の反論は、科学的根拠ではなく、有識者の声によって退けている。具体的には、もともとの論文執筆者のタレス・ウェスト氏が、Verra社の予測に対する疑念から研究を始めたということを紹介。また、Verraが2008年にメソドロジー「VM0015」を策定した際に、レビューを務めたカイル・ホランド氏が、修正を求めた結果、ホランド氏の修正手法とオリジナル手法の双方を、創出者は選択できるようになったということを伝えると同時に、選択という柔軟性が悪用されているとホランド氏の言葉を紹介した。

 Verraはさらに1月27日、「ファクト・チェック」と題する反論記事を追加でホームページに掲載。森林破壊回避型プロジェクトからのカーボンクレジット創出は、「ある種の企業の陰謀ではない。むしろこのプロジェクトは、科学者、自然保護団体、環境ビジネス、国連のさまざまな機関が何十年も行ってきた実証を通じて発展してきたもの」と述べると同時に、もともとの報道記事で重要な誤りとする10ヶ所を抽出し、逐次反論を行った。特に、報道記事が、特定の科学者の主張に全面的に依拠していることや、そもそも科学者の意見にも依拠しておらず公表されていないジャーナリストの分析結果のみに依拠していることの問題を指摘する内容となっている。

 Verraは2022年8月、REDD関連のメソドロジーを改訂し、厳格な要件を課す形に一本化する検討を開始したことを公表。現在、改訂作業の最中にある。2023年中にリリースする予定で、2025年12月までは新メソドロジーの使用は任意だが、それ以降は使用を義務化する考え。

【参照ページ】The Carbon Con
【参照ページ】Verra Response to Guardian Article on Carbon Offsets
【参照ページ】Verra Fact Check of Die Zeit Article
【参照ページ】Overstated carbon emission reductions from voluntary REDD+ projects in the Brazilian Amazon
【参照ページ】A global evaluation of the effectiveness of voluntary REDD+ projects at reducing deforestation and degradation in the moist tropics
【参照ページ】Revision of Verra’s Avoiding Unplanned Deforestation and Degradation Project Methodologies: Update

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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