ドイツ連邦政府は11月1日、環境影響懸念のため、深海底資源開発プロジェクトを当面の間、全面凍結する政策を発表した。同様に、他国に対しても、深海底開発の停止を呼びかけに行く。日本政府も提唱する深海底開発に大きな逆風が吹き始めてきた。
深海底は、国連海洋法条約と第11部実施協定により、どの国にも属さない領域と決められており、「人類の共同財産」として国連機関である国際海底機構(ISA)の管理下にある。そのため、深海底開発を進める事業者や国は、ISAに申請し、設定された規制条件の下でのみ、開発が容認される。また、同条約により、開発申請主体は、常に2つの鉱区をまとめて申請し、ISAが開発事業者として任意の1鉱区を選択でき、残った鉱区を開発主体が開発できるというルールになっている。さらに開発事業者の申請に関しては、当該事業者の登記国の政府も申請を承認することが義務化されている。
今回のドイツ政府の発表は、2021年にナウル政府が採掘申請を提出したことが契機となった。海洋国家ナウルの周囲には、深海底があり、鉱物資源が眠っていることで知られている。そこで、カナダ本社の鉱山採掘ベンチャーのメタルズ・カンパニー(旧DeepGreen)のナウル100%子会社ナウル・オーシャン・リソース(NORI)が国際海底機構に採掘申請を計画。そこで、登記国のナウル政府は7月9日、第11部実施協定の第1条に基づく、いわゆる「2年ルール」をISAに対し発動していた。
2年ルールとは、ISA理事会は発動から2年以内(今回は2023年7月9日まで)に、申請される予定案件に関する実施規定を固めなければならないという期限設定を義務化するもの。期限内に設定できないままに開発申請がされた場合は、ISA理事会は、当該プロジェクトの「検討継続」と「仮承認」をしなければならず、実質的にゴーサインを出すこととなる。目下、ジャマイカのISA本部では、協議する国際会議が開かれており、今回ドイツ政府は、その協議に向けて意思を伝えた形。
ドイツ政府は、全面凍結の理由として、深海底開発が環境に及ぼす影響がないという証拠が不十分であり、学術研究そのもののレベルを上げる必要があるとした。学術研究が進化し、影響が軽微ということがわかるまでは、いかなる深海底開発も凍結すべきとした。
今回のドイツ政府の決定は、ドイツ登記の開発事業者のISA申請を食い止める効果を持つが、他国登記開発事業者のISA申請を妨げるものではない。そこで、ドイツ政府は、他の国連海洋法条約締約国にも同様の判断を要請していく外交政策を進める考え。
深海底開発を巡っては、ドイツより先行して、スペイン政府とニュージーランド政府等が、深海底開発を凍結するよう求める政策を発動済み。その中でも、ドイツは凍結提唱国の中で最大の経済大国であり、影響が大きいとみられている。実際にすでにISAはドイツ事業者に2つの深海底開発ライセンスが発給しており、これは今回のドイツ政府の意向で中止となる見通し。フランスのマクロン大統領も6月、国連海洋会議の中で、凍結までは求めないものの、深海底開発の進行を抑制するルール整備を求めている。
また、企業からも2021年、世界自然保護基金(WWF)が主導し、深海底資源の活用及びファイナンスを自主的に禁止するイニシアチブが発足。BMW、フォルクスワーゲン、ボルボ・グループ、ルノー・グループ、グーグル、フィリップス、パタゴニア、サムスンSDI等が署名している。
【参考】【国際】BMWとWWF、深海底資源の採掘禁止イニシアチブ発足。グーグル、サムスン等も参画(2021年5月1日)
【参考】【国際】責任ある資源財団、深海底採掘の一時停止を支持。国際的に動き広がる(2021年7月14日)
【参考】【日本】環境NGO4団体、金融機関に深海底資源開発でのセクターポリシー策定要求(2022年2月3日)
【参考】【国際】UNEP、深海底資源開発に全面ノー。持続可能なブルーエコノミー原則に反する(2022年6月6日)
【参照ページ】Schutz der Meere: Deutschland unterstützt bis auf Weiteres keinen Tiefseebergbau
【参照ページ】Business Statement Supporting a Moratorium on Deep Seabed Mining
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