米連邦上院は8月7日、インフレ抑制法案を賛成51、反対50の僅差で可決した。今後連邦下院での審議に入る。同法案は、再生可能エネルギーへの投資拡大と医療費支援で合計4,330億米ドル(約59兆円)の予算を盛り込んでいる。
同法案は、バイデン政権の目玉政策の一つ。しかし、1年前に打ち出された同法案の対象範囲について与党民主党の内部でも議論が紛糾した。同日の採決でも民主党議員は全員賛成、共和党議員は全員反対で50対50になり、最後は上院議長のはリスク副大統領が賛成票を投じた。法案審議過程では、予算額が当初の6兆米ドルから4,330億米ドルへと大幅に減額された。
法案は、まず、再生可能エネルギー事業に対する税額控除の拡大や、電気自動車(EV)の購入税控除で、3,690億米ドル(約50兆円)を用意。これにより、米国の二酸化炭素排出量を2030年までに2005年比で約40%削減する。
EV補助金に関しては、サプライチェーンの安全保障上の観点から米国、カナダ、メキシコの北米3ヶ国で最終組立が行われたものに限定。2023年1月1日以降からの購入車両が対象で、控除額の上限は7,500米ドル。控除額の算出はやや複雑で、コバルトやリチウムといった重要鉱物のうち、調達価格の40%が米国と自由貿易協定(FTA)を結ぶ国で抽出あるいは処理されるか、北米でリサイクルされている場合に3,750米ドルの控除が適用。さらに2027年以降は調達価格の80%へと段階的に引き上がる。またバッテリー用部品のうち、50%が北米で製造されている場合も3,750米ドルの控除が適用。2029年以降には100%へとこちらも比率を引き上げる。
EV補助金はメーカー毎に20万台の上限を求める案も出た。これに対しては、GM、テスラ、トヨタ自動車は上限に達成しており、6月13日にトヨタ自動車と米系3社が連邦議会に上限撤回の共同書簡を送り、最終的に上限なしとなった。但し、北米内での組立車両にしか控除が適用されないルールに関しては、GMやフォード等のメーカー側から反発もあったが、覆らなかった。
加えて、昨今のエネルギー危機を考慮し、内務省が管轄の海域でオフショアの石油・ガス開発のため陸域200万エーカーと、海域6,000万エーカーでのリース公募を行うことも決定した。石油・ガスを含めたことに対しては批判もあるが、再生可能エネルギー促進の予算が十分に大きいことから、同法全体を歓迎した環境NGOも多い。
医療関係では、メディケアで薬価交渉を行うことが可能となった。今後5年頃を目途に高価格の医薬品10品目から開始し、その後拡大していく予定。パートDに加入している高齢者の処方薬費用の自己負担額も年間2,000米ドルに抑制される。但し、法案審議過程で、インスリン費用への上限設定や、薬価でのインフレ値上げ抑制についての条項もあったが、共和党が反対し削除された。
一方、同法では、連邦政府の歳入の増税を盛り込んだ。まず大企業に対し法人税を最低1%以上に引上げ。対象となる企業は、アルファベットやメタ等の150社未満になりそうだという。また自社株買いには購入額の1%を課税する。歳入の増加額は、法人税15%以上等で3,130億米ドル、薬価改革で2,880億米ドル、内国歳入庁の徴税強化で1,240億米ドル等で合計7,390億米ドルとした。
[2022.8.13追記]
米連邦下院は8月12日、賛成220、反対207で同法案を可決した。バイデン大統領が署名すれば、同法は成立する。
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