福島県、大熊町、双葉町の3地方自治体は8月2日、トリチウム等の放射性物質を含む福島第一原子力発電所のALPS処理水を海洋放出する東京電力の計画に関し、海洋放出に使われる施設建設を了解する表明した。3自治体の首長が東京電力ホールディングスの小早川智明社長と福島県庁で面会し直接伝えた。
ALPS処理水とは、福島第一原子力発電所では、地下水や雨水などが建屋内の放射性物質に触れることや、燃料デブリ(溶け落ちた燃料)を冷却した後の水が建屋に滞留することにより発生した汚染水を浄化処理した水のこと。
ALPSは「多核種除去設備」の意。当初は放射性物質のトリチウム等を基準値以下に下げたものをALPS処理水と呼んでいたが、経済産業省は2021年4月、風評被害の防止を目的に、「ALPS処理水」の定義を変更。「トリチウム以外の放射性物質」を規制基準以下まで浄化処理した水を「ALPS処理水」とした。トリチウムを対象から外した理由については、経済産業省は「トリチウムは水素の仲間であり、水道水や食べ物、私たちの体の中に普段から存在しています。規制基準を満たして処分すれば、環境や人体への影響は考えられません」としている。経済産業省は、ALPSは62種類の放射性物質を取り除くことができると強調。トリチウムの濃度に関しては、海水を大量に混ぜ合わせることで、濃度を下げるという。
ALPS処理水の海洋放出は、2021年4月に当時の菅政権時代に、第5回廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議で方針が決定。その際、「海洋放出は、設備工事や規制への対応を行い、2年程度の後に開始します。トリチウムの濃度を国内の規制基準の40分の1、WHO(世界保健機関)の定める飲料水の基準の7分の1まで低下させます。さらに、IAEAなど第三者の目も入れて、高い透明性で監視します」と表明していた。
経済産業省はその後、ALPS処理水の処分の安全性に関するIAEAレビューを発表し、一定の安全性が確認されたことを伝えている。但し、同レビューには「本報告書及びIAEAレビュー下にある他のミッション報告書は、進捗報告としての役割を果たすことを意図したものであり、IAEAレビューが継続している間は最終的な結論は導き出せない。ALPS処理水の放出開始前に、IAEAは、レビューの全側面にわたってタスクフォースが収集した結論を含む包括的な報告書を発行する予定である。この包括的な報告書は、タスクフォースの最終的な結論及び所見が含まれる予定」とし、最終的な結論を保留している。
今回の自治体の表明に先んじて、原子力規制委員会は7月22日、2021年12月に東京電力ホールディングスから申請されたALPS処理水の海洋放出設備の設置等に係る実施計画の変更を認可。その際、「今後、東京電力は、ALPS処理水の放出開始前までに、海洋放出設備の設置状況を確認するための原子力規制委員会による使用前検査を受けるなどプロセスが継続する予定です。これらを実施するまでの間、海洋放出は行われません。また、IAEAによる独立したレビューはその間も含め今後も継続的に実施され、日本政府は、IAEAレビューからの所見を丁寧に考慮していきます」と伝え、IAEAのレビューを今後も継続的に受け、安全性が確認されることが、実際の放出の前提条件としている。
現在、福島第一原子力発電所の敷地内には汚染水タンクが約1,000基存在。東京電力ホールディングスは、1回の放出でタンク10基分に当たる約1万tのALPS処理水を海洋放出する計画だが、放射性物質の濃度測定に最長で2か月かかるという。また、汚染水の発生を抑制できず、発生量が放出量を上回れば、タンクは増え続けることになる。現在タンクの中には、ALPS処理が行われているが、放出の基準までは満たしてものが多い。そのため海洋放出までには再度処理をして基準値を満たす必要がある。
【参照ページ】福島第一原発の処理水 海洋放出施設の建設了解 福島県など
【参照ページ】東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の定義を変更しました
【参照ページ】廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議
【参照ページ】ALPS処理水の取扱いに関する質問と回答
【参照ページ】東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の処分の安全性に関するIAEAレビュー
【参照ページ】東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水の海洋放出関連設備の設置等に係る実施計画変更の認可
【画像】グリーンピース
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