厚生労働省の中央最低賃金審議会は8月2日、2022年度の地域別最低賃金額改定の目安を答申した。都道府県で30円から31円の上昇で、過去最大の引上げ額。昨今のエネルギー価格や食料価格の高騰を考慮した。
最低賃金の金額は、中央最低賃金審議会の答申を参考にしつつ、各都道府県の地方最低賃金審議会で、地域における賃金実態調査や参考人の意見等も踏まえた調査審議の上、答申を行い、各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を最終決定する。但し、中央最低賃金審議会の答申内容は尊重される傾向にある。
中央最低賃金審議会では、都道府県の経済実態に応じ、全都道府県をABCMの4ランクに分類し、引上げ額の目安を提示している。今回の答申では、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府がランクA、茨城県、栃木県、富山県、山梨県、長野県、静岡県、三重県、滋賀県、京都府、兵庫県、広島県がランクBで31円の引上げ。その他が30円の引上げ。
今回の答申は、6月28日に開催された第63回中央最低賃金審議会で、厚生労働相から今年度の目安についての諮問を受け、同日に「中央最低賃金審議会目安に関する小委員会」を設置し、5回にわたって審議を行った。しかし審議は大きく紛糾した。
8月1日にとりまとめられた「中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告」によると、「労使の意見が一致せず、目安を定めるに至らなかった」と最後まで労使で妥結できなかった。
労働者側は、経済・社会の活力の源となる『人への投資』が必要で、その重要な要素の1つが最低賃金の引上げにほかならない」と主張。「最低賃金は生存権を確保した上で労働の対価としてふさわしいナショナルミニマム水準へ引上げるべきである」とした上で、「昨今の急激な物価上昇が働く者の生活に影響を及ぼしていることや、特に基礎的支出項目等の伸びが顕著であり、生活必需品等の切り詰めることができない支出項目の上昇が最低賃金近傍で働く者の生活を圧迫している」と訴えた。都市部だけ金額を引き上げることに関しては、雇用が流出し、地方経済はますます打撃を受けると反対した。
一方、使用者側は、「中小企業の労働分配率が80%程度と高い中、近年の最低賃金は、過去最高額を更新する引き上げが行われ、影響率も高止まりしており、多くの中小企業から経営実態を十分に考慮した審議が行われていないとの声がある」と述べた。さらに「『生産性が向上し、賃上げの原資となる収益が拡大した企業が、自主的に賃上げする』という経済の好循環を機能させることが重要であり、スムーズな好循環の実現のため、中小企業に対する一層の支援を含め、産業構造上の上流から下流まで、企業規模にかかわらない、さらなる生産性の向上や価格転嫁も含む取引環境の適正化への支援等の充実が不可欠」と主張した。
結果、最終的に、大学教授等の公益委員の見解として答申の方向性をまとめた形となり、「令和4年度地域別最低賃金額改定の目安に関する公益委員見解」も一緒に答申内容に含められた。公益委員は、岸田内閣の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」及び「新しい資本主義実行計画工程表」と「経済財政運営と改革の基本方針2022」に配意し、意見をまとめたことを明らかにした。労働者側も使用者側も、公益委員がまとめた結果に関し不満を表明したことも報告書に記載されている。
そのため、今回の審議会では、公益委員の意見を最終報告としつつも、実質的に議論を各地方の最低賃金審議会に委ねたともいえる。今後、各都道府県の地方最低賃金審議会での議論に焦点が集まる。
この答申を受け、日本商工会議所の三村明夫会頭は、「企業の支払い能力の厳しい現状については十分反映されたとは言い難い」「最低賃金の改定による影響を受けやすく、コロナ感染再拡大の影響が懸念される飲食・宿泊業や、原材料・エネルギー価格など企業物価の高騰を十分に価格転嫁できていない企業にとっては、非常に厳しい結果であると受け止めている」「今後行われる地方の審議会では、地域の中小企業・小規模事業者の経営実態を十分に考慮した検討が行われることを期待する」とコメントした。
厚生労働省の資料によると、各都道府県の最低賃金を下回っている労働者は、2021年度に全国で1.7%。今回の引上げで改正後の最低賃金を下回る労働者が16.2%いる。最低賃金を下回ることは、国際的に「ディーセント・ワーク」を満たしていないとみなされ、人権侵害にもなる。サプライチェーン上での最低賃金遵守についても企業は確認していく必要がある。
【参照ページ】令和4年度地域別最低賃金額改定の目安について
【参照ページ】地域別最低賃金額改定の目安に対する三村会頭コメント
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