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【アメリカ】連邦最高裁判決で民主・共和の対立激化。中絶、銃規制、環境規制巡り

 米連邦最高裁判所が、共和党と民主党の思想対立の大きな舞台となってきている。連邦国家制度をとる米国では、合衆国憲法により、連邦政府が制定できる法規制そのものが州政府から授権されたものに限定されており、連邦政府の権限そのものが連邦最高裁判所で争われることが多いことも大きな要因。

 また、9人で構成される連邦最高裁判所判事は、死去まで終身で着任することが多く、死去した際には新判事の指名権が大統領にあるため、大統領政権党の影響を多く受ける。現在の構成は、民主党寄りの判事が、ビル・クリントン大統領時代の1994年任命が1人、バラク・オバマ大統領時代の2009年と2010年の任命が計2人で合計3人。一方、共和党寄りの判事が、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領時代の1991年に任命が1人、ジョージ・W・ブッシュ大統領時代の2005年と2006年の任命が計2人、ドナルド・トランプ大統領時代の2017年、2018年、2020年の任命が計3人で合計6人。特に、トランプ大統領時代に3人が任命されたことで、一気に共和党寄りの構成となった。

 最近の動向では、連邦最高裁判所は6月24日、ミシシッピ州の中絶クリニック「ジャクソン女性健康機関」が、同州保健局を相手取り起こした違憲訴訟で、女性の人工妊娠中絶権を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を破棄し、人工中絶を禁止した2018年制定のミシシッピ州法は合憲との判決を、賛成5、消極的反対1、反対3の賛成多数で下した。同訴訟では、2018年11月に連邦地方裁判所では州法を違憲とし、2019年12月にも連邦上級巡回区裁判所でも違憲判決が出ていた。しかし5月に、連邦最高裁判所での合憲判決の草案が暴露され、全米で一気に社会問題となっていた。

 同判決により、妊娠中絶は、各州が州法によって禁止か否かを立法できることが明確となった。現在、禁止に動くと見られているのは、ミシシッピ州以外に、アラバマ州、アリゾナ州、アーカンソー州、ジョージア州、アイダホ州、インディアナ州、ケンタッキー州、ルイジアナ州、ミシガン州、ミズーリ州、ネブラスカ州、ノースカロライナ州、ノースダコタ州、オハイオ州、オクラホマ州、ペンシルベニア州、サウスカロライナ州、サウスダコタ州、テネシー州、テキサス州、ユタ州、ウェストバージニア州、ウィスコンシン州、ワイオミング州。いずれも共和党の勢力が強い州。

 すでに闘いの場は州裁判所に移っており、フロリダ州では、妊娠15週目以降の人工中絶を禁止する州法が州議会を通過し、4月に州知事が署名して成立済み。7月1日に施行の予定だったが、「プロ・チョイス」と呼ばれる中絶賛成派団体が提訴した裁判で、6月30日に同州下級裁判所は、同州法を一時的に差し止める仮処分判決が出た。しかし、すぐに同州最高裁判所が7月1日、同下級裁判所の仮処分を差し止める判断を下し、仮処分判決が無効となった。連邦最高裁判所判決後の6月27日には、ルイジアナ州とユタ州の州裁判所では、中絶を禁止・制限する州法を差し止める判決が出た。同3州を含む13州では、連邦最高裁判所が「ロー対ウェイド判決」を破棄すれば、自動的に中絶禁止・制限の州法が成立する「トリガー法」が成立していた。

 一方、ニューヨーク州議会は7月1日、中絶の権利を州憲法で保証する州憲法改正案を可決。正式制定に向けた手続きを開始した。州政府の単位で、中絶の権利を確保しにいく。

【参考】【アメリカ】企業CEO180人、米国複数州での中絶禁止の動きに反対の意見広告掲載。人材戦略に悪影響(2019年6月14日)

 2つ目の話題は銃規制。米連邦最高裁判所は6月23日、自衛のための個人が自宅外で銃を携行することを禁止する1911年制定のニューヨーク州法を違憲とする判決を、賛成6、反対3の賛成多数で下した。同判決では、憲法修正第2条により、国民が公共の場で銃を持つ権利を保障していると判断しつつ、「デリケートな場所」での携行は各州が規制できるとした。

 これに対し、ニューヨーク州議会は7月1日、人が密集する場所での銃の携行を禁止する州法案を早速可決し、対抗。連邦最高裁判所が示した「デリケートな場所」を広く解釈し、公共交通機関、教育施設、病院、礼拝所、集会場、投票所、バー、タイムズスクエア等での銃の携行を禁止した。

 米連邦最高裁判所では、2008年の「ヘラー判決」で、同じく憲法修正第2条により、自衛のために個人が家庭内で銃を所持する憲法上の権利を有すると判決が出ており、今回はさらに携行も認める判断となった。米国では、ニューヨーク州以外にも、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、デラウェア州、メリーランド州、ニュージャージー州、ロードアイランド州、ハワイ州が、銃の携帯を許可制にしているが、州政府では同州法も違憲となるおそれがあると警戒感を強めている。

 一方、連邦議会は、超党派で銃規制強化の法案を可決させ、6月25日にはバイデン大統領が署名。規制強化法が成立している。銃に関しては、クリントン政権時代の1994年に連邦議会が「アサルト・ウェポン規制法(AWB)」を制定し、半自動小銃の販売を禁止。しかし、10年間の時限立法のため、10年後の失効した。しかし、その後、銃乱射事件等が相次ぎ、銃に対する懸念が増大。今回、バイデン政権下で28年ぶりに銃規制強化法が誕生した形。

 同法では、配偶者や未婚のパートナーへのDV犯罪で有罪判決を受けた者が銃を所有することを禁止。但し、他の犯罪がない限り、5年後には銃の所有権が回復する。また、銃販売を収益源としている個人事業主にも連邦政府認定の銃器販売業者としての登録を義務化した。18歳以上の銃購入者には、購入時に厳しい身元調査も課した。連邦政府は、強化した規制の実行を支えるため、州政府向けに7.5億米ドルの予算も確保している。

 3つ目の話題は環境規制。米連邦最高裁判所は6月30日、ウェストバージニア州が米環境保護庁(EPA)を相手取り起こしていた訴訟で、ウェストバージニア州側勝訴の判決を下した。連邦最高裁判所判事9人のうち賛成が6、反対が3だった。石炭火力発電所からの排出量を規制することを目的としたキャップ&トレード型規制の創設権限は、EPAではなく連邦議会にあり、EPAの越権行為とした。

 同訴訟は、2015年に当時にオバマ政権がEPAに指示した「クリーン・パワー・プラン(CPP)」に対するもので、7年越しの判決となった。連邦政府の規制に関しては、いずれかの州政府から異議が唱えられるのが常で、同訴訟もその一つだった。途中のトランプ政権時代には、EPAが導入したルールは、オバマ政権時代の当初案よりも大幅に内容が弱くなっていたが、それでも複数の州から異議が出ていた。

 これら3つの連邦最高裁判所判決に対し、バイデン大統領は大きく反発。連邦議会での立法措置等で、最高裁判所の対抗する考えを披露している。特に、中絶禁止に関しては、早急に連邦議会で関連法を成立させ、中絶の権利を保護しにいく考え。連邦上院では、議席の3分の2の賛成が得られない限り、議事を妨害し、法案を廃案にできる「フィリバスター」制度があるが、バイデン大統領は、人工妊娠中絶や同性婚等の「プライバシー権」を保障する法案審議では、フィリバスターの例外事項に加える準備まで進めており、与野党の対立は激化する見通し。

 フロリダ州では、さらに7月1日、子供に学校でLGBTQに関する教育を行うことを規制する州法も施行。LGBTも共和党・民主党対立の大きな争点になる可能性が高い。

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