英首相府は4月7日、エネルギー安全保障戦略を発表。2030年までに英国の電力の95%を原子力発電、風力発電、太陽光発電、水素、石油火力発電、ガス火力発電に転換するとともに、国産エネルギーの増産を進める。これらの産業育成で雇用を4万人以上増やし、2030年までに合計48万人の雇用を確保する。
同戦略では、原子力発電を大幅に加速させ、2050年までに設備能力を最大24GWまで拡大し、電力総需要の約25%を賄う。小型モジュール炉(SMR)にも期待を寄せる。実行のため、政府機関「英国原子力(Great British Nuclear)」を設立し、早速「未来原子力実現基金」を1.2億ポンド基金で創設する。今後10年で最大8基の原子力発電新設の実現を目指す。
洋上風力発電では、2030年までに最大50GWという新たな目標を設定。そのうち洋上風力発電が最大5GW。陸上風力発電では、エネルギー料金の低減を前提とし、加速スキームを検討する。太陽光発電では、現在の国内14GWから2035年までに5倍にまで増やす。英国内でのヒートポンプ製造でも2022年に最大3,000万ポンドの投資促進予算を用意する。水素では、2030年までにクリーン水素生産能力を2倍の最大10GWに引き上げ、半分以上はグリーン水素とする。余剰の風力発電を活用する考え。
石油・ガスでは、北海油田・ガス田の新設プロジェクトを進め、自給率を上げる。但し、英政府と石油業界が2021年3月に合意された「北海トランジション・ディール」は堅持。石油・ガス部門の脱炭素化も進め、原子力及び再生可能エネルギー、水素への転換を長期戦略とする。
【参考】【イギリス】政府、北海での石油・ガス開発で気候変動政策整合のチェックポイント設定へ。パブコメ募集(2021年12月26日)
雇用効果では、2028年までに洋上風力発電で従来の予想より3万人多い9万人を想定。2028年までに太陽光発電でも従来の予想のほぼ2倍の1万人の雇用。水素産業でも2030年までに従来の予想より3,000人多い1万2,000人の雇用を支援する。
直近のエネルギー価格高騰対策では、消費者向けに90億ポンド(約1.5兆円)の支援パッケージを用意。4月から市税150ポンド減額、エネルギー料金も200ポンド程度引下げを図る。住宅の省エネ改善でも、今後数年間で50万戸以上を想定し、平均300ポンドの削減を目指す。長期的にはエネルギー料金を恒久的に削減するために、太陽光発電パネル、断熱材、ヒートポンプ等の省エネプロジェクトの設置にかかる付加価値税を、2027年まで一時的に減税する。
英ビジネス・エネルギー・産業戦略省は4月5日には、シェールガス採掘に関する最新の科学的根拠について勧告するよう英地質調査所に依頼している。英国では2019年11月、北海移行局の報告書で、水圧破砕作業に関連する地震の発生確率や規模を正確に予測することは不可能であることが判明し、イングランドでの活動の一時停止を発表。安全性を示す証拠が提供されるまで開発を停止するとしていた。しかし今回、エネルギー安全保障のために、可能な限り再開を検討する方向性を示した。2022年6月末までに報告書が出てくる予定。
それに先駆け、英ビジネス・エネルギー・産業戦略省は4月6日、英国の英国のエネルギーシステムを統括する新機関「未来システム・オペレーター(FSO)」を設立すると発表した。電気、ガス、水素等のエネルギー全体の需給を統括し、エネルギー安定化の役割を担う。法整備が整い次第、正式発足し、業務を開始する。
同戦略は、英国のクリーンエネルギーの独立性をより確実にするための方策が盛り込まれている。FSOは主に電力系統を所管するが、必要に応じてガス系統も監督する。英政府、ガス・電力市場規制局(Ofgem)、ナショナル・グリッド・ガス(NGG)、電力系統運用者(ESO)のライセンス取得送配電事業者は、FSOに協力する。FSOは、規制当局Ofgenに、独立したアドバイス技術情報提供する。
また同省は4月8日、エネルギー安全保障を強化するための3億7,500万ポンド(約620億円)の予算も発表した。水素製造に2億4,000万ポンド、次世代原子力発電技術開発に250万ポンド、炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術開発に500万ポンドを投入する。化石燃料への依存度を減らす。
水素分野では、「ネットゼロ水素ファンド」に2.4億ポンドを投入し、2022年末からグリーン水素インフラへの資金提供開始を予定。英政府は、2025年までに低炭素水素の生産設備容量を2025年までに2GW、2030年までに10GWの目標を掲げており、目標達成に向け支援する。同省は4月8日、「低炭素水素」を定義する基準を発表。原単位排出量はMJHLV当たり20g以下等の基準を設定した。また同日、「水素投資ロードマップ」も示している。
次世代原子力では、英国の先進モジュール型原子炉(AMR)の開発で、250万ポンドの入札を実施する。高温ガス炉(HTGR)型の第4世代の原発開発を視野に入れている。別途、原子力規制庁と環境庁も、英国のAMRの開発を実現するために83万ポンドの追加資金を提供する。
CCUSでは、世界14ヶ国が参加する「ACT3」スキームへの支出。ACT3への参加国は、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、スイス、オランダ、ノルウェー、デンマーク、北欧閣僚理事会、ギリシャ、ルーマニア、カナダ、インド、トルコ。4月8日には、ビジネス・エネルギー・産業省から、CCUSロードマップが発表。2030年までに経済全体で年間2,000万tから3,000tを回収し、英国の2050年カーボンニュートラル目標を達成するため、4つのクラスターを形成しに行く。
他にも、英原子力庁(UKAEA)は3月28日、今後4年間、主要な核融合エネルギープログラムを支援するため、950万ポンドの予算を発表している。
【参照ページ】Major acceleration of homegrown power in Britain’s plan for greater energy independence
【参照ページ】Government future proofs Britain’s energy system with launch of new body to boost energy resilience
【参照ページ】Government unveils investment for energy technologies of the future
【参照ページ】Scientific review of shale gas launched
【参照ページ】New fusion energy recruitment framework to boost economy and improve diversity
【参照ページ】North Sea Transition Deal cuts emissions as clean energy transition continues
【参照ページ】UK Low Carbon Hydrogen Standard: emissions reporting and sustainability criteria
【参照ページ】Carbon capture, usage and storage (CCUS): investor roadmap
【参照ページ】Hydrogen investor roadmap: leading the way to net zero
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