最高裁判所は3月2日、2011年の福島第一原子力発電所事故で、避難を余儀なくされた住民が東京電力と国を相手取り集団訴訟した事案で、福島県、千葉県、群馬県での提訴3件について、東京電力からの上告を棄却。国の基準を上回る賠償を命じた各高等裁判所の判決が確定した。国に対する国家賠償訴訟に関しては、高等裁判所での判決が分かれている状態で、最高裁判所は別途、4月に弁論を開く予定。
一連の福島原発事故避難集団訴訟で、東京電力の責任と賠償額が確定するのは今回が初。賠償額は、約3,600人に対し総額約14億円。現在、集団訴訟は全国で30件以上を抱えており、他の訴訟にも影響を与えるとみられる。
2審の高等裁判所判決では、仙台高等裁判所は、原則3,500人の福島訴訟で、国と東京電力に同等の責任があると判断し、総額約10億円の賠償を命令。千葉県への避難者40人が起こした千葉訴訟では、東京高等裁判所は、国と東京電力に対し2億7,800万円の賠償を命じた。一方、東京高等裁判所は、約90人が提訴した群馬訴訟では、別の裁判官が、国の責任は「津波の発生を予測できたとは言えない」と判断し、東京電力のみに約1億1,900万円の賠償を命じていた。
原子力損害賠償法は、電力会社に過失有無にかかわらず、無制限で賠償責任を負うことを規定している。一方、国の審査会は、原発事故後、東京電力に対し、「中間指針」で賠償額の目安を提示。その結果、放射線量が高い地域では、850万円から1450万円、自主避難地域では8万円から48万円等が支払われてきた。今回の集団訴訟は、国の基準が十分かが争われていた。
さらに東京電力ホールディングスは同日、ALPS処理水放出に関連する費用を、国が所管する原子力損害賠償・廃炉等支援機構の「廃炉等積立金制度」に追加申請した。これにより追加30億円が、同基金から東京電力ホールディングスに支払われることとなった。
同集団訴訟に対し、国を代表する法務省は、「福島第一原子力発電所に主要建屋の敷地高を超える津波が到来することについて予見可能性はなく、また、福島原子力発電所事故の結果回避可能性もなかったから、規制権限の不行使の違法性は認められないと主張し、原告らの国に対する損害賠償請求を棄却するよう求めています。また、最高裁判所判例(大阪空港訴訟最高裁判所判決等)において、請求内容を実現するために行政権の発動・行使等が不可欠となる訴訟は、民事訴訟としては不適法であるとされていることを踏まえ、国は、原告らの国に対する原状回復請求に係る訴えについては、訴えの却下を求めています」としている。
[2022.6.19追記]
最高裁判所は6月18日、同事案で国の賠償責任は認めない判決を4対1で下した。初の最高裁判決。4件の集団訴訟の上告審としての判断となった。同事案では、他にも全国で約30件の訴訟を抱えているが、今回の最高裁判決の判断を基に判決が出される見込み。判決では、国が2002年に公表した地震予測の長期評価に基づく揺れよりはるかに規模が大きく、国が規制権限を行使し、東電に安全対策を講じさせても事故を防ぐことができなかった可能性が高いとした。
【参照ページ】福島原子力発電所事故に伴う国家賠償請求訴訟
【参照ページ】廃炉等積立金制度に基づく「廃炉等積立金の取戻しに関する計画」の変更承認について
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