Skip navigation
サステナビリティ・
ESG金融のニュース
時価総額上位100社の96%が
Sustainable Japanに登録している。その理由は?

【EU】欧州委、カーボンニュートラルに向け具体政策発表。農業、海洋、不動産、エネルギー、通商

 欧州委員会は12月15日、包括的気候産業規制「Fit for 55」を具現化するため、各業種での二酸化炭素排出量削減に関する政策を相次いで発表した。

【参考】【EU】欧州委、包括的気候産業規制「Fit for 55」採択。国境炭素税も盛り込む。大企業賛同(2021年7月15日)

ネガティブ・エミッション

 まず、大気からの炭素除去(ネガティブエミッション)に関しては、「持続可能な炭素循環に関するコミュニケーション」を採択。大気中からの炭素除去を増加する政策の方向性を定めた。生物多様性の促進も政策目標に含め、農地土壌及び海洋植物での炭素貯留をネガティブエミッションの柱に据えた。

 今回の発表では、炭素貯留型農業「カーボンファーミング」やブルーカーボン・プロジェクトを支援し、2030年までにEU域内で4,200万tの二酸化炭素を貯留するとの目標を掲げた。そのため、共通農業政策(CAP)や、欧州の予算パッケージである「LIFE」や「Horizon Europe」等の制度を通じ、農地管理者にインセンティブをつけるための短期・中期的な行動を定めた。

 また、カーボンファーミングに関する認証制度の確立や、炭素貯留量を測定するモニタリング・報告・検証(MRV)の算出ルール策定、ボランタリーカーボンマーケットの発展を促すことを決めた。プロジェクト実施者への助言、知見、データマネジメントに関するサービスも提供していく。CCUSでは、2030年までに年間500万t規模にまで高める目標も掲げた。

 農業については、有機農業食品、持続可能な農業、動物福祉等の分野でEU食品の競争力を高める予算として総額1億8,590万ユーロ(約237億円)を用意。EU域外でのキャンペーンの優先国とし、日本、韓国、カナダ、メキシコ等の高い成長が見込まれる市場を挙げた。

 産業用途で使われている炭素に関しては、バイオエコノミーへの転換、炭素回収・利用・貯留(CCUS)で回収し再生した炭素の活用で供給できるようになるとの見通しも示した。EUの生物多様性やサーキュラーエコノミーに関する戦略と符合する形で、2030年までに化学製品やプラスチック製品で使用する炭素の20%以上を、化石燃料由来でない炭素の転換する。EU排出量取引制度(EU-ETS)からの収益金を財源とするファンドを通じて、イノベーションを支援する。

 欧州委員会は、炭素循環(カーボンリサイクル)に関する認証制度を2022年末までに固める考え。2022年1月にパブリックコメントを募集する。

不動産

 次に、建築物に関しては、2050年までにEUの既存不動産を全てカーボンニュートラル(二酸化炭素ネット排出量ゼロ)化する建築物エネルギー性能指令(EPBD)の改正提案した。新築物件については2030年までに、公共施設に関しては2027年に、前倒しでカーボンニュートラルを義務化する。EU全域の住宅、オフィス、学校、病院等の全ての不動産を修繕し、二酸化炭素排出量を削減する。

 既存不動産の修繕では、新たな最低エネルギー性能基準案を示した。EU各加盟国で、最も性能の悪い15%の不動産を、非住宅では2027年までに、住宅では2030年までに、エネルギー性能証明書のグレードF以上に引き上げることを義務化したい考え。また、エネルギー性能証明書の取得義務が、大規模修繕中の不動産、賃貸契約が更新された不動産、全ての種別の公共施設にも適用を拡大。分譲及び賃貸の全ての建物や戸建てでも証明書取得が義務化され、不動産販売・賃貸広告には、エネルギー性能等級の記載が義務化される。

 これらの計画を規定するEU加盟国の国家建物改修計画は、気候変動に関する計画の欧州委員会への提出を義務化している「国家エネルギー・気候計画」に包含され、これにより欧州委員会への報告が義務化される。

 同時に、欧州委員会は、カーボンニュートラル型不動産を増やすため、「リノベーションパスポート」を導入し、不動産オーナー向けに計画策定ツールを提供。また、不動産ローンでも、「住宅ローンポートフォリオ基準」を、金融機関が投資物件として保有する建物のエネルギー性能を向上させ、投融資先がエネルギー効率の高い物件にシフトすることを奨励する仕組みも設ける。2027年以降、各加盟国政府は、化石燃料ボイラー設置に補助金等の財務インセンティブを支給することも禁止される。一方で、建物のデジタルトランスフォーメーション(DX)化を促進し、住宅や商業施設への電気自動車(EV)充電スタンドの設置支援や、駐輪スペースの増加も提案した。

 欧州委員会は、不動産のカーボンニュートラル化に向けたコラボレーションを加速するため、加盟国、業界のステークホルダー等に将来ビジョンの共同作成を呼びかけた。具体的なアイデアは2022年2月末まで募集する。

電力、ガス、水素

 天然ガス削減と水素増産では、新たなEU指令とEU規則を提案した。まず、天然ガスから再生可能な低炭素ガス、特にバイオメタンや水素への移行のための条件を整備。そのため、水素市場を確立し、投資のため環境整備、第三国との貿易を含めた専用インフラの開発を可能にすることを目標とした。市場ルールは、2030年以前と以後の2段階に分けて導入し、水素インフラへのアクセス、水素製造と輸送の分離、関税の設定等が含まれている。体制として、「欧州水素ネットワーク事業者ネットワーク(ENNOH)」を創設し、専用の水素インフラ整備、国境調整、相互接続ネットワークの構築、具体的な技術ルール策定を進める。

 同計画では、電気、ガス、水度のネットワーク整備は、国家エネルギー・気候計画及びEU全域の10年ネットワーク開発計画と整合させることを要求。ガス網に関しては、廃止や、水素や再生性可能ガス等への転換を計画に含めることを規定するとともに、水素網では別途、ネットワーク整備計画の策定・報告も制度化する。また、国境を超える相互接続では関税を撤廃し、EU規模での整備を加速化させる。再生可能エネルギー指令で開始された再生可能ガス認証の策定作業も完了させる。さらに消費者向けにも、再生可能エネルギー電力や再生可能ガスを選択しやすくなるよう、価格比較ツールや透明性の高い請求書フォーマットを導入していく。

 加えて、CCUSが整備されていない天然ガスの長期調達契約では、2049年以降に契約期間が及ぶことも禁止する政策も盛り込んだ。成立すると、天然ガスの購入や輸入が大幅に制限されることになる。一方、直近のガス価格高騰に対しては、欧州委員会が10月13日に発出した「エネルギー価格に関するコミュニケーションとツールボックス」に基づき、各加盟国からの要請に応じて、域内での融通を安定化させる措置を講ずる。加盟国単位での自主的な共同調達も許可する案も入れた。各地域でのガス貯留でも、地域単位でのリスク評価を行い、ガス貯留戦略に反映させる。加えて今回、再生可能エネルギーと再生可能ガスについても、域内融通の促進と、サイバーセキュリティ対策条項を設けることも提案した。

 これらとは別に、エネルギー部門でのメタン排出削減でも、初のEU法制定に動く。石油、ガス、石炭の各業界に対し、メタン排出量の測定、報告、検証を義務付けるとともに、メタン漏出の検出と修繕、ベントやフレアを実質的に禁止する厳格なルール案も掲げた。廃坑メタンや不活性井での測定を考慮した緩和計画も策定することを義務化する。

 さらに、EUへの石油・ガス・石炭の輸入に伴うEU域外でのメタン排出量の透明性を確保するため、第1段階として、2つのツールを整備する。まず、輸入業者やEUの事業者が報告したデータを公開する透明性データで、世界中の国やエネルギー企業のメタン排出抑制の実績や削減努力をデータベース化し、輸入分の算出ができるようにする。もう一つは、人工衛星を使ったメタン排出ホットスポットのモニタリングを世界規模で導入する。続く第2段階では、世界各国と外交交渉を行い、同様の施策をグローバル規模で進められるようにする。

通商・貿易

 EUは同日、貿易と環境に関し、WTOでの3つの新たなイニシアチブに署名。WTOで進める議論を積極的にリードする姿勢も示した。3つのイニシアチブは、「貿易と環境持続可能性イニシアチブ」、化石燃料補助金改革に関するイニシアチブ、プラスチック汚染と持続可能なプラスチック貿易に関するイニシアチブの3つ。

 貿易と環境持続可能性に関しては、71加盟国・地域がすでに賛同しており、同イニシアチブで具体的な手法を検討することになっている。サーキュラーエコノミー、持続可能なサプライチェーン、ベストプラクティス収集も活動内容に含まれている。

【参考】【国際】世界70カ国・地域、WTO貿易と環境持続可能性に関する閣僚声明を発表。方向性提示(2021年12月14日)

 化石燃料補助金改革に関するイニシアチブには、45カ国・地域が加盟。WTOにおける化石燃料補助金の透明性を高め、化石燃料補助金の改革を促進するためのオプションを精査する。残りのWTO加盟国に対しても、途上国特有のニーズを考慮しつつ、アクションに参加するよう働きかける。

 プラスチック汚染と持続可能なプラスチック貿易に関するイニシアチブは、67ヶ国・地域がすでに合意。プラスチックの貿易での物流等を解明する。発展途上国にもベストプラクティスを共有する。

【参照ページ】European Green Deal: Commission proposals to remove, recycle and sustainably store carbon
【参照ページ】EU continues strong support to promote sustainable agri-food products in 2022
【参照ページ】European Green Deal: Commission proposes to boost renovation and decarbonisation of buildings
【参照ページ】Commission proposes new EU framework to decarbonise gas markets, promote hydrogen and reduce methane emissions
【参照ページ】EU promotes World Trade Organization initiatives on Trade and Environment

author image

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

この記事のタグ

Sustainable Japanの特長

Sustainable Japanは、サステナビリティ・ESGに関する
様々な情報収集を効率化できる専門メディアです。

  • 時価総額上位100社の96%が登録済
  • 業界第一人者が編集長
  • 7記事/日程度追加、合計11,000以上の記事を読める
  • 重要ニュースをウェビナーで分かりやすく解説※1
さらに詳しく ログインする

※1:重要ニュース解説ウェビナー「SJダイジェスト」。詳細はこちら

"【ランキング】2019年 ダボス会議「Global 100 Index: 世界で最も持続可能な企業100社」"を、お気に入りから削除しました。