経済産業省資源エネルギー庁は7月21日、同庁の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の中で、第6次エネルギー基本計画の素案を発表した。最終的に、10月頃の閣議決定を計画しているという。自由民主党等の与党としては、秋にも実施が予想されている総選挙後での世論の争点としないまま議論を延ばし、総選挙後に最終閣議決定する考えとみられる。
(出所)資源エネルギー庁
今回の素案では、2018年に閣議決定された第5次エネルギー基本計画と比べ、再生可能エネルギー比率が前回の「22%から24%」から「36%から38%」へと大幅に引き上げられた。また、水素・アンモニアのエネルギー構成比も「1%」とされ、原発以外のゼロエミッション電源で37%から38%の水準となった。他では、原子力発電の比率は「20%から22%」と前回を据え置いた。化石燃料火力では、天然ガスが前回の「27%」から「20%」へ、石炭が「26%」から「19%」へ、石油が「3%」から「2%」へとダウンした。また、今後、動力の電動化への転換が図られる中、省エネをさらに進め、総発電量も前回の10,650億kWhから、約9,300億から9,400億kWhに抑える。
再生可能エネルギーを大幅に引き上げる策としては、太陽光発電と陸上風力発電で、改正温暖化対策推進法(温対法)に基づく再生可能エネルギー促進区域の設定(ポジティブゾーニング)や、洋上風力発電の案件形成加速を挙げた。一方で、太陽光発電の立地対策や事故対策等では規律を強化する。地熱発電では、自然公園法・温泉法・森林法の規制の運用見直しを進める。
また、系統では、再生可能エネルギーが石炭火力発電より優先的に基幹系統を利用できる系統利用ルールの見直しにも言及。ノンファーム型接続をローカル系統にまで拡大し、再生可能エネルギー発電事業者の系統費用負担の引下げも進める。
2050年カーボンニュートラルに向けた技術開発では、「建物の壁面、強度の弱い屋根にも設置可能な次世代太陽電池の研究開発・社会実装を加速、浮体式の要素技術開発を加速、超臨界地熱資源の活用に向けた大深度掘削技術の開発などに取り組む」とした。
一方、大手電力会社が加盟する電気事業連合会は、「安全を大前提とした原子力の最大限の活用およびリプレース・新増設」を掲げ、原子力発電の再稼働・リプレース・新増設を強く求めてきていた。その声を受け、4月には、自由民主党で、原発の新増設・リプレースを推進する議員連盟が発足。安倍晋三・元首相が顧問、稲田元防衛大臣が会長に就任していた。6月に閣議決定された「成長戦略実行計画」でも、当初の原案では、「原発を最大限活用」との文言が入っていたが、小泉進次郎環境大臣が反対し文言が削除。今回の素案でも、新増設・リプレースの文言は盛り込まれず、あくまで「再稼働」のみの言及となった。
【参考】【日本】政府、経済財政運営と改革の基本方針2021を閣議決定。グリーン、デジタル、地方、少子化の4重点(2021年6月20日)
しかし、原子力発電については、計画に矛盾がみられる。自然エネルギー財団によると、原子力発電を20%から22%とするためには、未稼働の17基をあわせ27基が稼働し、設備利用率も、過去の実績を大きく超える80%という非常に高いパフォーマンスが前提となる。しかし、実際には、27基には、今後新たに60年運転の許可を得なければ2030年に運転できない原子炉が8基含まれており、ルール改正が必要。また再稼働そのものについても、素案で掲げる「国民の懸念の解消」が順調に言っているとはいえない。
再生可能エネルギーへの転換を進める欧米では、EUが再生可能エネルギーの電源構成を54%以上、英国では58%以上となることがほぼ確定しており、さらに引き上げを図っている。米国の州からも70%もの再生可能エネルギー比率を掲げるところもある。これらと比較すると、日本の36%と38%は、野心的なものとなっておらず、新興国や発展途上国からしても、日本の技術に期待する気運が低下するものとなっている。
【参照ページ】総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第46回会合)
【参照ページ】2050 年カーボンニュートラルの実現に向けて
【参照ページ】電事連会長 定例会見要旨
【参照ページ】エネルギー基本計画素案(2030年電源構成案)について
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