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【EU】欧州委、包括的気候産業規制「Fit for 55」採択。国境炭素税も盛り込む。大企業賛同

 欧州委員会は7月14日、2030年までに二酸化炭素排出量を1990年比55%以上削減する公式目標を達成するため、包括的な気候変動政策パッケージを採択した。エネルギー、二酸化炭素排出量取引制度(ETS)、土地利用、交通、税制等での新ルールの方向性が盛り込まれており、今後EU理事会と欧州議会での立法審議に入り、2026年からの導入を目指す。

【参考】【EU】EU理事会と欧州議会、欧州気候法案で合意。2030年CO2の55%減、2050年以降のカーボンネガティブ(2021年4月21日)
【参考】【EU】欧州理事会、CO2を2030年55%削減の欧州委政策を支持。土地利用変化も算出範囲に(2020年12月12日)

EU二酸化炭素排出量取引制度(EU-ETS)

 全体の排出量上限を、現行からさらに引き下げ、毎年の削減率を引き上げる。航空業界に対しては、無償排出枠を段階的に廃止し、国際民間航空機関(ICAO)が導入する国際的な炭素相殺・削減スキーム(CORSIA)との整合性を図る。また、新たに海運業界を初めてEU-ETSに含める。陸上交通と不動産のための燃料流通で、新しい排出量取引制度を新設し、削減強化を図る。それらに向け、EUのイノベーション・近代化ファンドの金額拡充も求める。

 EU加盟国は、EU-ETSからの収入額を気候及びエネルギー関連のプロジェクトに充当。これにより、EU予算の負担分を引き下げる。別立てで新設する道路交通と不動産向けの排出量取引制度からの収入は、脆弱な世帯、零細企業、交通利用者への「ジャスト・トランジション(公正な移行)」への予算として充当する。

加盟国への削減目標割当

 各加盟国の現状と削減能力の違いを認識し、不動産、陸上交通、国内海運、農業、廃棄物、小規模産業での排出削減目標を加盟国に割り当てるEU努力共有規則を制定。配分は、一人当たりGDPを軸に、コスト効率も加味して設定する。

土地利用

 自然の吸収源による炭素除去で、2030年までに3.1億tの二酸化炭素排出量を大気から吸収するEU土地利用・林業・農業規則を制定。加盟国にも目標の設定を課す。2035年までに、土地利用、林業、農業の分野で、肥料使用や畜産も含めた農業全体の二酸化炭素以外の温室効果ガスも含め、気候ニュートラルを目指すべきとした。2030年までに欧州全体で30億本の植林を行う計画も盛り込んだ。

 EUの森林の質、量、回復力を向上させることを目的としたEU森林戦略を掲げ、森林経営者や森林を利用したバイオエコノミーを支援。加えて、伐採やバイオマス利用を持続可能なものに転換、生物多様性を保全、2030年までに欧州全体で30億本の植林を行う計画も打ち出した。

エネルギー

 再生可能エネルギー指令を改正し、2030年までにエネルギー全体の再生可能エネルギー割合を現行の32%から40%に引き上げる。それに応じて、各加盟国が、交通・輸送、冷暖房、不動産、工業での再生可能エネルギー利用に関する具体的な目標を提案する。バイオエネルギーに関しては、気候変動と生態系の双方の目標を達成するために、サステナビリティ基準を強化。加盟国は、木質バイオマス利用では、カスケード原理を尊重する制度導入が求められる。

 エネルギー効率指令では、全体的なエネルギー使用量の削減、排出量の削減、「エネルギー貧困」に対処するため、EU規模での野心的な拘束力のある年間目標を設定。加盟国の国別拠出金の設定方法を提示し、加盟国の年間省エネ義務をほぼ倍増させる。公共部門は、毎年建物の3%を省エネ改修することが求められる。

輸送・交通

 自動車とバンの二酸化炭素排出量基準を強化し、新車の平均排出量を2021年比で2030年には55%、2035年には100%削減を義務化。結果、2035年には全ての新車をゼロ・エミッションにする。EV充電スタンドや水素補給スタンドの拡充では、改正代替燃料インフラ規則を制定。加盟国に対し、EV充電スタンドを60km毎、水素補給スタンドを150km毎に設置するよう各加盟国に求める。

 航空と海運では、代替燃料インフラ規制では、航空機や船舶が主要な港や空港でクリーンな電力供給を受けられるようにすることを義務化する。例えば、EUの空港で合成低炭素燃料(e-fuels)を混合して航空機に供給することを燃料供給企業に義務付ける「ReFuelEU航空イニシアチブ」を立ち上げる。海運では、同様に「FuelEU海事イニシアチブ」を立ち上げ、欧州の港に寄港する船舶の燃料に二酸化炭素の上限基準を設定することで、燃料のサステナビリティや、ゼロエミッション技術の導入を促進する。

税制

 エネルギー課税指令を改正し、エネルギー製品への課税をEUのエネルギー・気候政策に合わせる。これにより、クリーン技術の促進や化石燃料に対する免除や軽減税率の撤廃を図る。これにより、エネルギー税の競争による弊害を軽減。エネルギー税を強化することで、所得税等の労働課税の引下げも狙う。

国境炭素税

 対象製品を指定し、製品をEU域内に輸入する際に製品の二酸化炭素排出量に応じた炭素税を課す。これにより、規制を強化したEUからEU域外へと産業が転出する「炭素漏出」を防ぐ。対象製品は、電力、鉄、セメント、アルミニウム、肥料の4品目。但し、EU非加盟国でも、アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタインからの製品は適用しない。対象となる二酸化炭素排出量は直接排出量に限定する。

大企業の反応

 これら一連の政策パッケージは「Fit for 55」と呼ばれており、欧州企業12社のCEOによる気候変動対策推進イニシアチブ「CEO Alliance for Europe's Recovery, Reform and Resilience」は7月8日、先行して支持を表明している。

 同イニシアチブは2020年、新型コロナウイルス・パンデミックと欧州グリーンディール政策を背景に発足。自らをシンクタンクではなく、セクター横断で協働する「アクションタンク」と位置付けている。SAP、フォルクス・ワーゲン、エネル、シュナイダーエレクトリック、ABBグループ、イベルドローラ、フィリップス、E.ON(エーオン)、アクゾノーベル、エリクソン、H2 Green Steel(H2GS)、スカニアの12社のCEOが参画。今回の提言では、マッキンゼーが知見の共有と追加調査を行った。2021年秋には、同イニシアチブとEU代表によるハイレベルディスカッションを開催予定。

 同イニシアチブは、EUによる二酸化炭素排出量の大きなセクターへの補助金等、主要な規制の見直しを歓迎。特にカーボンプライシングについては、EUの気候目標の達成のため、経済全体への導入を強く要請した。二酸化炭素排出量の削減と社会的均衡の両立を求めた。また、電力と重工業セクターに対するEU排出量取引市場(EU-ETS)の継続も要請。セクター別のキャップ・アンド・トレード方式を自動車・輸送・建設セクターにも導入するよう求めた。

 同イニシアチブの加盟企業は、自動車・輸送セクターでは、エネルギー消費と二酸化炭素排出量削減の観点から電気自動車(EV)化が最も効率性が高いと分析。EV移行を促進するため、同イニシアチブで協働し、欧州でのEVバッテリー製造やEV充電スタンド敷設等を自発的に進める。さらに欧州委員会の建築物改修政策「Buildings Renovation Wave」の野心的な気候目標も支持。省エネ性能、再生可能エネルギーへの切り替え、持続可能な素材の使用等、高い基準の必要性を訴えた。また化石燃料での熱供給システムの電化や地域熱供給の導入も重視。同イニシアチブのCEOは、自社ビルへの導入にコミットする。

[2021.7.22修正]
一部表現を修正した。

【参照ページ】European Green Deal: Commission proposes transformation of EU economy and society to meet climate ambitions
【参照ページ】Cross-industry CEO Alliance backs EU plan to cut carbon emissions by 55% by 2030
【参照ページ】Cross-industry CEO Alliance backs EU plan to cut carbon emissions by 55% by 2030
【参照ページ】Cross-industry CEO Alliance backs EU plan to cut carbon emissions by 55% by 2030
【参照ページ】E.ON backs EU plan to cut carbon emissions by 55 percent by 2030
【参照ページ】Cross-industry CEO Alliance backs EU plan to cut carbon emissions by 55% by 2030
【参照ページ】H2 Green Steel joins cross-industry CEO Alliance, to back EU plan to cut carbon emissions by 55% by 2030

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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