G20財相・中央銀行総裁会議が7月9日と10日に、イタリア・ヴェネチアで開催され、閉幕後に共同声明を発表した。2021年のG20財相・中央銀行総裁会議は今回が3回目だが、今回始めてオンラインではなくリアルで開催された。共同声明では、パンデミック、税、気候変動・生物多様性、デジタルトランスフォーメーション、発展途上国の債務支援、マクロ金融システムについての合意内容を示した。
【参考】【国際】G7コーンウォール・サミット2021、共同声明採択。パンデミック、気候変動、生物多様性等で合意(2021年6月14日)
パンデミック
新型コロナウイルス・パンデミックに対しては、ワクチンが国際公共財であることを確認。特に世界保健機関(WHO)とEUが2020年4月に発足した「新型コロナウイルス対応ツールへのアクセス加速事業(ACT-A)」を中心に、官民で効果的に質の高いワクチンを世界で公平に共有できるようにするまで対処すると宣言した。また、ワクチン・検査薬・治療薬の生産の世界分散を支持し、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、WHO、世界貿易機関(WTO)が発展途上国向けのワクチン・検査薬・治療薬でタスクフォースを設立したことを歓迎した。
将来のパンデミック対策については、1月26日に発足した「国際公共財としてのパンデミックへの備えと対応のための資金調達に関するG20ハイレベル独立パネル」が、今回の会合に向け報告書「A Global Age for Our Pandemic Age」を発表。同パネルには、日本からは石井菜穂子・東京大学教授(前地球環境ファシリティ議長兼CEO)が参加している。同報告書では、将来のパンデミック対策には年間150億米ドル(約1.7兆円)以上の追加投資が必要であり各国の国内での投資環境の整備、医療と金融の双方での国際協調の進展、パンデミック発生時の感染防止や収束に向けた対応期間の短縮、将来の感染症を引き起こすウイルスや菌の国際的なモニタリング体制の拡充をG20に要請した。G20財相・中央銀行総裁会議は今回、同報告書を歓迎し、提言内容に留意することで合意した。10月のG20財務大臣・保健大臣合同会合で、具体的な提案を行うとした。
税
税に関しては、「税源浸食・利益移転に関するOECD/G20包摂的枠組み」で7月1日に合意した15%の最低法人税率の導入とデジタル課税を承認。10月次回会合までに、残課題を解決し、実施計画と設計項目を最終化することで合意した。また、未合意の9ヶ国・地域についても、早々に合意することを招請した。
【参考】【国際】G20/OECDのBEPS枠組み130ヶ国地域、デジタル課税と法人税15%以上で合意。9ヶ国・地域は未加盟(2021年7月2日)
気候変動・生物多様性
気候変動・生物多様性喪失への対処では、脱炭素化とサーキュラーエコノミーを促進する持続可能なインフラやイノベーションへの投資、最貧困層及び最脆弱層を対象とする支援、無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金の合理化と段階的廃止、カーボンプライング(炭素価格制度)の導入を具体的に例示した。国際開発金融機関(MDBs)に対しては、パリ協定との整合性を追求した上で、新興・開発途上国(EMDEs)への資金供給を行うよう求めた。
気候変動に関しては、今後続々とイベントが用意されている。まず7月11日には、G20としての国際機構会議が開催され、ジャスト・トランジション(公正な移行)、グリーンファイナンス、MDBsの役割、気候関連財務情報開示、民間資金フローを動員するためのインセンティブ付けが話し合われる。10月には、IMFとOECD)の合同報告書が発行される予定で、今回の会合でも期待を表明。金融安定理事会(FSB)がG20財相・中央銀行総裁会議に提出した気候変動金融リスク政策のロードマップについては、10月の会合で議論することでも合意した。同ロードマップに記されていた気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に基づく企業や投資家の情報開示では、実施に向けて動くことも確認した。
【参考】【国際】金融安定理事会、G20財相会合に気候関連金融リスク政策のロードマップ提示。賛同要請(2021年7月8日)
デジタルトランスフォーメーション
デジタルトランスフォーメーションに関しては、生産性の向上、パンデミックからの回復の強化、幅広い繁栄を実現するための手法と位置づけ、OECDとIMFが作成に協力した報告書「G20政策オプション・メニュー:デジタル・トランスフォーメーションと生産性の回復」を承認した。同報告書では、各国間でのグッドプラクティスを共有し、インクルージョンの促進やデジタル化による成長機会の活用を促した。
その他、気候変動や保健等のリスクを体系的に統合し、パンデミック、自然災害、気候変動の物理リスク及び移行リスクを含む将来の危機に対するレジリエンスの向上で緊密に協調することも確認した。国際機関では、IMFが、FSBと経済及び金融統計に関する当局間グループ(IAG)と協力し作成した「考え得る新たなデータギャップイニシアティブに関するコンセプトノート」に留意することで合意。また企業に対しては、「G20/OECDコーポレート・ガバナンス原則」の改訂に言及し、OECDに対し、2022年の最初の会合で進捗報告を求めるとした。
デジタル・インフラに関しては、経済回復の重要な原動力と認識し、10月の会合に向け、質の高いブロードバンド連結性の資金調達と促進に向けた作業を続ける。加えて、「投資対象としてのインフラに向けたG20ロードマップ」に基づき、民間資金を動員するため、官民の投資家間の協働を発展させる。発展途上国向けの支援では、国際金融公社(IFC)の業務をレビューする次回のインフラストラクチャー・ワーキンググループ会合で議論する。
発展途上国の債務支援
IMFで議論されている6,500 億米ドル相当の特別引出権(SDR)の新規一般配分を支持持し、8月末までの速やかな配分の実施を求めた。債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)の下で達成された進捗を歓迎する。二国間債権者については、債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)で、2021年6月までの債務を支払延長することに合意したことを支持。対象の債務は、7月2日時点で、45ヶ国総額46億米ドル(約5,000億円)にのぼる。
マクロ金融システム
マクロ金融の安定化に向けた課題対策では、FSBでの検討事項に焦点を当てた。FSBは、グローバルでのマクロ金融システムに関する残課題を10月に最終報告書として発表する予定。今回の共同声明では、ノンバンク金融仲介(NBFI)セクターのレジリエンス強化へのコミットや、米ドルによるクロスボーダーの資金調達とNBFI関連の脆弱性との相互作用にも言及。クロスボーダー決済に関しても、FSBの10月の報告書のテーマとなる。金融インクルージョンや金融リテラシーの向上にも触れた。
【参照ページ】20か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明(仮訳)
【参照ページ】Italian G20 Presidency Communiqué
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