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用語集

カーボンニュートラル・カーボンネガティブ・気候ポジティブ

 カーボンニュートラルとは、温室効果ガス(GHG)排出量と温室効果ガス吸収量の総和をゼロにすることを言います。この状態を達成するには、温室効果ガス排出量を完全にゼロ(カーボンゼロ)にするか、排出量相当分を大気中から除去する手法を組み合わせるかのいずれかを実現する必要があります。そのため、カーボンニュートラルは、「温室効果ガスネット排出量ゼロ」と同義語です。ここでの「ネット」は日本語で「純」や「正味」を意味する英語です。

 また、気候変動を引き起こす効果を持つ温室効果ガスには、京都議定書により、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)、三フッ化窒素(NF3)の7種類と定められています。そして、これらを合計した排出量の単位として「二酸化炭素排出量換算t」が使われているため、温室効果ガスのことを「二酸化炭素」と呼ぶこともかなり一般的です。そのため、この頁でも、温室効果ガス全体を指して二酸化炭素と呼びます。

 大気中から二酸化炭素を除去する方法は複数ありますが、その多くは大きく3つに分類されます。

  1. 自然を軸とした解決策
    • 自然に基づくソリューションには、植林と森林再生があります。これには、以前は何もなかった場所に森林を植えたり(植林)、過去にあった場所に森林を再構築したり(森林再生)することで、土地を再利用することができます。その他の自然に根ざした解決策としては、沿岸や海洋の生息地を修復し、大気中のCO2を吸収し続けることができるようにすることも含まれます。
  2. 自然のプロセスを強化することを目的とした対策
    • 自然プロセスの強化には、近代的な農法を用いて土壌中の炭素含有量を増加させる土地管理アプローチが含まれる。これには、バイオ炭(バイオマスから生産される木炭)を土壌に添加することが含まれ、炭素は数百年から数千年にわたって貯蔵される。あまり開発されていないアプローチとしては、CO2を吸収する自然のプロセスを促進するために風化を促進する方法や海に栄養素を添加してCO2を吸収する能力を高める海洋施肥などがあります。風化促進と海洋施肥のアプローチは、炭素除去の可能性、コスト、リスク、トレードオフを理解するために、さらなる研究が必要であります。
  3. 人工技術を活用した解決策
    • 直接大気回収(DAC):大気中の二酸化炭素を科学的な手法で吸着し、大気中の二酸化炭素濃度を減少させる手法
    • 炭素回収・貯留型バイオエネルギー(BECCS):エネルギー源を生物由来のバイオ素材とすることで二酸化炭素排出量を大幅に減らすことに加え、廃棄される二酸化炭素も炭素回収・貯留(CCS)技術を用いて大気排出を防ぐ手法

カーボンオフセット

 カーボンニュートラルで、ネット排出量をゼロにする際に、自前で二酸化炭素の吸収量を十分に確保できない場合には、他社が実施した削減量を公式に「カーボンクレジット」を購入することで、自社の排出量を削減したことにする手法が認められています。この手法をカーボン・オフセットと呼びます。但し、近年、カーボンオフセットでは、他社の削減量を自社に移転するだけで、実際には削減に関する追加性(アディショナリティ)がないことから、カーボンオフセットを活用したカーボンニュートラルは「不完全」と捉える考え方もあり、自発的にカーボンオフセットを活用せずにカーボンニュートラルを目指す企業も現れています。

カーボンオフセットの主たる種類

  • 再生可能なエネルギーへの切り替え(水力発電、風力発電、地熱発電、太陽光電力など)。世界経済フォーラム(WEF)によると、エネルギーシステムの完全な脱炭素化が気候安定化の唯一の解決策であると示している。原子力発電も再生可能ネルギーと同様に脱炭素電源だが、事故時の甚大な負の影響となることから、原子力発電を含める場合と含めない場合がある。「脱炭素化」とはエネルギー源からの二酸化炭素の削減・排除を指す。
  • 植林・森林再生・森林保護での炭素固定(炭素隔離)
  • 省エネ設備を導入した工場、発電所等での二酸化炭素排出量削減
  • 農業手法の転換、家畜のげっぷや排泄物からのメタンガス回収・削減、交通機関の転換等のその他の手法

自社事業のカーボンニュートラルとバリューチェーン全体のカーボンニュートラル

 上記のカーボンニュートラルには大きく2つのレベルがあります。1つ目は、自社事業でのカーボンニュートラルで、こちらには自社での直接排出量と、購入電力からの間接排出量が含まれます。もうひとつは、自社だけでなくサプライヤーや取引先まで含めたバリューチェーン全体のカーボンニュートラルです。後者のカーボンニュートラルの方が、遥かに難易度は上がります。

 二酸化炭素排出量の算出には、国際的に「GHGプロトコル」という基準が憲法的な役割を果たしており、日本も含めた世界各国もGHGプロトコルを自主的に国内法化して受容しています。自社事業と、バリューチェーン、のいずれに関しても、細かくどの排出量までを算出すべきかは、細かくGHGプロトコルと、GHGプロトコルの補助資料によって規定されています。

カーボンネガティブ

 カーボンネガティブとは、二酸化炭素の吸収量が排出量より多い状態の呼び方です。すなわちカーボンニュートラルに留まらず、さらに吸収量を上げ、全体の排出量をマイナスにしてしまう状態のことを指します。現在、国単位でカーボンネガティブを達成しているのはブータンとスリナムの2カ国だけです。企業単位では、マイクロソフトは2030年までにカーボンネガティブを実現するという計画を発表しています。

カーボンニュートラルと気候ニュートラルの違い

 カーボンニュートラルの類義語には、「気候ニュートラル(Climate Neutral)」がありますが、気候ニュートラルの意味は近年大幅に概念が変化しています。かつては、カーボンニュートラルが、炭素元素を含む温室効果ガスである二酸化炭素やメタンガスの排出量をネットゼロにするに対し、気候ニュートラルは、一酸化二窒素(N2O)、六フッ化硫黄(SF6)等を含めた概念と言われていました。

 しかし近年、カーボンニュートラルが、7種類の温室効果ガス全てでのネットゼロを指すようになり、上記の区別はほぼ使われなくなりました。その上で気候ニュートラルは、カーボンニュートラルと同義語となっています。

気候ポジティブ

 カーボンネガティブの同義語としては、「気候ポジティブ」が使われています。すなわち、カーボンネガティブが、二酸化炭素排出量が「マイナス」の状態のためネガティブという単語が使われるのに対し、気候ポジティブでは、カーボンネガティブの状態が気候変動緩和にとって好ましい状態(ポジティブ)であることから、ポジティブという単語が使われています。

カーボンニュートラルとパリ協定

 2015年に第21回国連気候変動枠組条約パリ締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定は、2100年までの気温上昇を産業革命前から2℃から十分低い水準に抑え、さらには1.5℃を目指すことを国際目標として定めました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、この目標を達成するためには、今世紀後半のできる限り早いタイミングで世界全体でのカーボンニュートラルを達成しなければなりません。そして、1.5℃目標を高い確率で実現するには、2050年の段階でカーボンニュートラルを実現しなければならないと目されています。そのため、「2050年カーボンニュートラル」を国連は提唱しています。

※本サイト編集長の夫馬賢治がカーボンニュートラルを解説した本を講談社から出版しています。
カーボンニュートラル・カーボンネガティブ・気候ポジティブ 1

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