国際協力銀行(JBIC)は12月29日、三菱商事や中国電力が出資するベトナム法人Vung Ang II Thermal Power Limited Liability Company(VAPCO)に対し、同国ブンアン2石炭火力発電事業を対象とするプロジェクトファイナンスに17.7億米ドル(約1,830億円)の融資を決定した。日本政府とJBICは、石炭火力発電プロジェクトへの融資を厳格化する方針を示していたが、最終的に融資を断行した。
ブンアン2は、2017年6月6日と2018年5月31日に発出された日越首脳共同声明に基づくプロジェクトの一つ。三菱商事と中国電力が出資し、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行も融資団に加わっている。当該プロジェクトでは、石炭火力発電プロジェクトのため、海外勢からの出資や融資からの撤退が相次いだが、日本側は国策プロジェクトとして堅持。香港電力大手CLPの出資撤退後は、韓国電力公社(KEPCO)が替わりに出資を決めたが、これにより韓国でも気候変動政策との整合性について国会で大きな論戦となった。
【参考】【日本】小泉環境相、ブンアン2石炭火力事業が首相官邸決定の「石炭火力輸出4要件」に違反と批判(2020年1月27日)
【参考】【日本】NGO127団体、政府・三菱商事・メガバンク等にベトナム・ブンアン2石炭火力新設中止を要求(2020年5月27日)
【参考】【日本】経産省、低効率石炭火力廃止や輸出厳格化の意向表明。このニュースの読み解き方(2020年7月4日)
【参考】【日本・韓国】機関投資家18機関380兆円、12社にベトナム・ブンアン2石炭火力からの事業撤退要求(2020年10月22日)
【参考】【韓国】韓国電力公社、海外石炭火力発電への出資禁止を表明。フィリピンと南アのプロジェクトも中止(2020年10月26日)
ブンアン2の案件は、設備容量600MWの超超臨界圧(USC)の石炭火力発電を2基建設する合計1.2GWの大型プロジェクトで、プロジェクトファイナンスの総額は64億米ドル。小泉進次郎環境相が石炭火力発電批判のターゲットとしたことでも知られている。
内閣官房長官を議長とする経協インフラ戦略会議は2018年に「インフラシステム輸出戦略(平成30年度改訂版)」を決定し、その中で、石炭火力発電について、
「パリ協定を踏まえ、世界の脱炭素化をリードしていくため、相手国のニーズに応じ、再生可能エネルギーや水素等も含め、CO2排出削減に資するあらゆる選択肢を相手国に提案し、「低炭素型インフラ輸出」を積極的に推進。その中で、エネルギー安全保障及び経済性の観点から石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り、相手国から、我が国の高効率石炭火力発電への要請があった場合には、OECDルールも踏まえつつ、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、原則、世界最新鋭である超々臨界圧(USC)以上の発電設備について導入を支援」
と表現。広く解釈すれば、USC以上の発電設備であれば、日本政府の判断で輸出ができるような状態になっていた。これに対し、ブンアン2は、日本製ではなく海外製の発電設備を選んだことから「我が国の高効率石炭火力発電」ではないと小泉環境相が批判し、その後に、梶山弘志経済産業相は7月3日石炭火力の輸出の公的支援については「条件をはっきりさせていく」と厳格化を明言する事態に発展した。
だが、経協インフラ戦略会議は2020年7月に「インフラシステム輸出戦略(令和2年度改訂版)」を決定するが、この時点では石炭火力発電に関する規定は、前述の内容をそのまま踏襲。そして、「インフラ海外展開に関する新戦略の骨子」という文書も作成し、その中で、
「パリ協定の目標達成に向け、世界全体の温室効果ガスの実効的な排出削減が必要不可欠となっている。再生可能エネルギーのコスト低下に牽引されたエネルギー転換など、エネルギー情勢が急速かつ大きく変化している中で、安価かつ安定的に調達できるエネルギー源が石炭に限られる国もあり、途上国などでは石炭火力を選択してきたという現実がある。石炭火力への資金を絞るダイベストメントのような方策もあるが、当該諸国の国民生活向上や経済発展にとって不可欠な電力アクセス向上・電力不足解消の選択肢を狭めることなく、世界全体の脱炭素化に向け現実的かつ着実な道を辿ろうとするのであれば、むしろ、こうした国々のエネルギー政策や気候変動政策に深くエンゲージし、長期的な視点を持ちつつ実現可能なプランを提案しながら、相手国の行動変容やコミットメントを促すことが不可欠であると考えられる。このため、我が国は、関係省庁連携の下、相手国の発展段階に応じたエンゲージメントを強化していくことで、世界の実効的な脱炭素化に責任をもって取り組む」
とし、石炭火力発電へのファイナンスを続けることを明言しながら、
「その上で、今後新たに計画される石炭火力発電プロジェクトについては、エネルギー政策や環境政策に係る二国間協議の枠組みを持たないなど、我が国が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉していない国に対しては、政府としての支援を行わないことを原則とする。その一方で、特別に、エネルギー安全保障及び経済性の観点などから当面石炭火力発電を選択せざるを得ない国に限り、相手国から、脱炭素化へ向けた移行を進める一環として我が国の高効率石炭火力発電へ要請があった場合には、関係省庁の連携の下、我が国から政策誘導や支援を行うことにより、当該国が脱炭素化に向かい、発展段階に応じた行動変容を図ることを条件として、OECDルールも踏まえつつ、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、超々臨界圧(USC)以上であって、我が国の最先端技術を活用した環境性能がトップクラスのもの(具体的には、発電効率43%以上のUSC、IGCC及び混焼技術や CCUS/カーボンリサイクル等によって発電電力量当たりの CO2排出量がIGCC並以下となるもの)の導入を支援する。」
と表現。政府として支援しないことを「原則」としつつ、日本政府が「エネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉して」いると判断すれば、海外製であったとしても日本の技術が活用されている発電効率43%以上のUSCであれば、支援できる内容となっていた。加えて、すでに検討が進められていたブンアン2案件については新方針を適用しないと言及していた。
経協インフラ戦略会議は2020年12月に「インフラシステム海外展開戦略2025」を決定。先の「インフラ海外展開に関する新戦略の骨子」の文書を戦略の本文書と位置づけ、石炭火力発電については7月決定の表現を続行とした。
このように、石炭火力発電の輸出協力やファイナンスについては、日本政府の解釈により「続ける」とも「しない」とも読み取れる内容であり、真の意思がどこにあるのかは、実際の融資判断で明らかとされる状況となっている。
環境NGOは、今回の融資最終決定を強く批判している。
【参照ページ】インフラシステム輸出戦略(平成30年度改訂版)
【参照ページ】インフラシステム輸出戦略(令和元年度改訂版)
【参照ページ】インフラシステム輸出戦略(令和2年度改訂版)
【参照ページ】インフラ海外展開に関する新戦略の骨子
【参照ページ】インフラシステム海外展開戦略2025
【参照ページ】【声明】 国際協力銀行によるベトナム・ブンアン2石炭火力発電事業への支援決定に強く抗議(2020/12/29)
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