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【EU】マッキンゼー、EUの2050年カーボンニュートラル実現方法を示すレポート公表。経済性と両立可能

 コンサルティング世界大手米マッキンゼーは12月3日、EUが2019年に発表した2050年二酸化炭素ネット排出量ゼロ(カーボンニュートラル)目標の実現方法を整理したレポートを発表。経済的便益を創出しつつも、2030年までに二酸化炭素排出量を55%削減でき、2050年には目標達成が可能とした。

 EU加盟27カ国の二酸化炭素排出量は、2017年に3.9Gt。世界全体の7%に過ぎないが、EUがカーボンニュートラルを実現することで、その他地域が取り組みを進める上での指標となる可能性があるという。

 セクター別の二酸化炭素排出量は、交通が28%、製造が26%、電力が23%、建築が13%、農業が13%。いずれの業界についても、化石燃料が最大の原因であり、二酸化炭素排出量の80%を占める。

 交通セクターでは、2045年までにカーボンニュートラル達成予定。電気自動車(EV)は既に導入が進んでいる一方、100%EV販売への切り替えが完了するのには、さらにあと10年を要する見通し。非常に大きな蓄電池が必要となり、EV化の困難な航空機や船舶については、高コストとなるバイオ燃料やアンモニア、合成燃料等への切り替えが必要となるという。

 製造セクターについては、脱炭素化が最も高コストとなると分析。現在開発中の技術の活用が必要となるため、カーボンニュートラル達成時期も2050年となる見込み。また2050年時点でも、廃棄物管理や重工業からは依然、二酸化炭素排出が続いている可能性があると指摘した。

 電力セクターでは既に、2040年代にカーボンニュートラルを実現可能な規模で、風力と太陽光発電が利用可能な状態。他セクターが電力・グリーン水素へ転換することで、電力需要の倍増が見込めるため、再生可能エネルギー発電量と蓄電容量の迅速な拡大が求められるとした。

 建築セクターでは、現在利用可能なほぼ全ての技術の活用が求められ、2040年代後半にカーボンニュートラル達成の見込み。再生可能な熱源を利用する住居の割合は、現在の35%から100%まで増加する必要があり、ガス資料量を半分以下に減らす必要があると指摘した。

 農業セクターについては、効率的な農業慣行の適用により、二酸化炭素排出量削減が見込めると分析。ただし、食肉用の家畜による二酸化炭素排出量が大きいため、肉食習慣の変容や技術的革新が求められる改善障壁の高いセクターだと指摘した。

 地域別の二酸化炭素排出量については、「地域の気候」「二酸化炭素貯留」「地域の農業慣行」「森林再生や風力発電所、太陽光発電所の設置が可能な土地」の4つの観点が脱炭素化の難易度を決めるとした。

 例えばEU北部の諸国では、南部諸国比で、洋上風力での発電時間が30%から60%長い。一方、南部諸国は、北部諸国より日照時間が1,000時間長い等の特徴がある。EU加盟国は、各国で低コスト化が可能な領域を強化し、相互に補い合うことで、コスト最適化のもと、カーボンニュートラルを実現できると分析した。

 また、テクノロジー観点では、大規模再生可能エネルギー電力への移行と省エネ技術により、EUの二酸化炭素排出量削減目標の64%は、2030年までに達成すると分析。化石燃料から電力への切り替えに伴い、2050年までに、EUの二酸化炭素排出総量は45%削減され、水素、バイオマス、炭素回収・貯蔵(CCS)活用でさらに30%削減が可能だとした。

 エネルギー観点で見ると、EUの現在の一次エネルギー需要の75%は化石燃料。コスト最適化を進める場合、石炭消費量は2030年までに大幅に減少し、石油・天然ガスの消費量は2050年までに10%未満にまで減少すると分析した。

 一方、再生可能エネルギーは、2050年までに一次エネルギー需要の80%以上になると予測。再生可能エネルギーの75%は直接電気として使用され、残り25%は、鉄鋼生産、長距離トラック輸送、航空、海運等で化石燃料に代替のグリーン水素として活用されると見込んだ。

 再生可能エネルギー需要を満たすには、2050年までに太陽光発電の設備容量を現在の20GWから50GWまで、風力発電の設備容量を15GWから30GWまで拡張する必要があると指摘。また、配電網間の相互接続を2030年までに3倍する他、蓄電容量については2030年までに25GW、2050年までには150GW以上に増強する必要があるとした。

 また土地利用観点については、カーボンニュートラル達成のため、輸送や製造セクターで削減困難な二酸化炭素排出量をオフセットするため、自然の炭素隔離を増強する必要があると分析。EUでは主に、農業セクターの効率改善で利用可能となった土地1,200万haで森林再生を行うことで、年間350Mtの二酸化炭素排出量削減に繋がる可能性があると推定した。

 EUは今後、脱炭素技術の移行に向け、同地域の設備投資全体の約4分の1に相当する年間平均8,000億ユーロ(約101兆円)の投資が必要。投資加速には、政策的介入が求められるが、投資額は、脱炭素化に伴うコスト削減で相殺される他、カーボンニュートラル達成に必要な投資の半分は利益になるという。

 具体的には、政府からの投融資では約4.9兆ユーロが必要。または、炭素税を二酸化炭素1tあたり50ユーロ課す場合、投資額の4分の3が収益性あるものとなり、1tあたり100ユーロ課す場合には、85%が収益性のあるものになるとした。

 雇用観点では、1,100万人の雇用創出、600万人の失業に繋がると示唆。2050年までに最大1,800万人がカーボンニュートラルの移行に関するトレーニングや支援を必要とする可能性があるとした。平均的な家庭では、カーボンニュートラルに伴い、生活コストは維持または減少し、低所得な家庭では、生活コストは下がるという。

 またカーボンニュートラルを実現した場合、欧州は事実上、エネルギーに依存しなくなるものの、カーボンニュートタルな技術や材料の輸入への依存度が高まる点を指摘。他方、研究開発が加速し、リーダーシップを維持する事で、新たな輸出セグメントでの大きな機会を得ることができるとした。

 同レポートは、今後10年間の二酸化炭素排出量削減のため、技術革新と研究、投資の拡大が必要だとし、全てのステークホルダーが行動を起こすべきだと呼びかけた。

【参照ページ】How the European Union could achieve net-zero emissions at net-zero cost

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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