欧州委員会は9月15日、欧州における雇用と社会連帯に関する年次レポート「欧州雇用・社会発展(ESDE)レビュー」の2020年版を発行した。今年は新型コロナウイルス・パンデミックという巨大な出来事があり、雇用と社会連帯に対する課題が顕在化した年となった。
今年のレポートでは、新型コロナウイルス・パンデミックによる欧州各国への経済影響はリーマンショックを超えると説明。失業率は上昇し、特に若者等の社会的弱者に対して甚大な経済影響が出ていると伝えた。
失業率の状況では、EUでは2011年前後の欧州債務危機後、失業率は徐々に低下し、2019年は6.7%にまで下がっていたが、パンデミックによりEU圏では9%、ユーロ圏では9.6%にまで急増。同様に、生活水準や時間あたり労働生産性でも2019年までは改善が見られていたが、パンデミックにより成果が吹き飛ぶ事態となった。
最低賃金については詳細な分析結果も披露した。そこでは、最低賃金の引き上げは、企業の雇用意欲を削ぎ失業率が上がるとの懸念があったものの、実際には、失業者が働く意欲を高め積極的に労働市場に参加した結果、失業率が下がったとの結果が得られたという。これにより、社会の生産力と社会福祉コスト負担が下がることとなり、最低賃金の引き上げは、社会全体の厚生に大きくプラスに作用すると結論づけた。
経済成長と格差については、EU加盟国の中でも経済成長率の高い国では、高所得者の所得向上率が高いということを突き止め、所得格差を拡大していくと警鐘を鳴らした。そのため、インクルーシブな成長が政策課題となると位置づけた。特に、少子高齢化社会では、年金制度の維持のためにも女性の雇用拡大が必要と指摘し、ジェンダー差別の撤廃が極めて重要との見方を強調した。
また今回のレポートでは、EUが重視する気候変動対策とデジタル化を踏まえた雇用・社会連帯の政策にも触れた。クリーンエネルギーへの転換には、衰退する産業の雇用を移行させるための再スキル化プログラム、あるいはそれに加えて失業給付による社会的投資が必要とした。こうした社会的な投資は2030年までに200億ユーロ(約2兆5,000億円)以上にのぼると予想した。
また、労働時間を短く区切り、より多くの人が働けるような雇用形態も重要であるとした。なお、雇用を守るための政策として、欧州委員会は「緊急の失業リスクの軽減措置(SURE)」を通じ、1兆ユーロの融資も行っている。
【参照ページ】Employment and Social Developments in Europe review: why social
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