国連食糧農業機関(FAO)は9月23日、農業・食品関連動向レポート「2020年の農産物市場の現状(SOCO 2020)」を発表。農産物貿易におけるグローバル・バリューチェーン(GVCs)の隆盛に言及した他、農業・食品の持続可能な開発の推進方法や、市場の進化について整理した。
同レポートでは、国際的な農産物貿易が、「都市化」「人口と収入の増加」「輸送コストの低下」「貿易政策と平均輸入関税の引き下げ」により推進されてきたと分析。世界の農産物貿易は1995年以来2倍以上になり、2018年には1.5兆ドル(157兆円)に到達した。
また、世界の輸出における農産物シェアは、高中所得国と低中所得国を併せると、2001年の約25%から2018年には36%に増加。発展途上国の輸出については、世界全体の3分の1以上を占めるまでに増加していた。一方、農業貿易の成長率は、2008年の金融危機以降、鈍化。新型コロナウイルスでさらに減速し、混乱を生じさせる可能性があるという。
地域別にみると、欧州や中央アジア、東アジア、太平洋諸国は、地域内貿易を行う傾向がある。南アジアやラテンアメリカ、カリブ海諸国、サブサハラ、北アメリカ、中東、北アフリカ諸国は、グローバルに貿易を行っている模様。特にアブサハラ、ラテンアメリカおよびカリブ海諸国からの農産物輸出の約90%は、他の地域向けだとした。
食料安全保障や栄養の観点では、食料を余剰国から不足国へ移転するという意味で、貿易は重要な役割を担う。現在、世界の農産物・食品輸出の約3分の1が、グローバル・バリューチェーン(GVCs)上で取引され、少なくとも2回は国境を超えていると推定される。さらに地域貿易協定により、グローバル・バリューチェーンは拡大する可能性がある。小規模農家は、グローバル・バリューチェーンに参画することで、食料生産と増収が期待できる見込み。
同レポートでは、農家のグローバル・バリューチェーンへの参加率が10%向上すると、労働生産性が約1.2%増加する可能性があると分析。しかし小規模農家では、参画機会を逃している場合が多いという。また、食品の品質や安全性に関する厳しい要件を求めるグローバル・バリューチェーンの台頭は、小規模農家をさらに追い詰める可能性があるとも指摘。農村のより良いインフラやサービス、教育、生産技術の提供等、小規模農家を支える幅広い政策が必要だとした。
デジタル技術については、市場のより良い機能を支援し、農家の市場へのアクセスを改善するとし、電子取引等により農家と消費者の双方に利益をもたらす可能性があると分析。食品の成長、加工、取引、消費のすべての影響を予測することは困難だが、契約農業やブロックチェーン等、より包括的なビジネスモデルの採用は、農家を現代の複雑なバリューチェーンに取り込むのに役立つとした。一方、デジタルイノベーションの成果を最貧困層と共有するには、農業におけるデジタルデバイドの解消が必要だと強調した。
農業・食品セクターにおける持続可能な開発促進としては、自主的なサステナビリティ認証スキームと基準の適用を例示。フェアトレードや、インクルージョン、差別の撤廃、労働安全の確保、児童労働の禁止、環境に良い農場慣行を促進し、投資を呼び込むことができるとした。
例えばウガンダの小規模コーヒー農家では、サステナビリティ認証を取得した場合の方が、子どもの教育に146%多く費やすことができ、子どもたちを長く学校に通わせることができるという。また別の研究では、持続可能な森林認証を取得したエチオピアのコーヒー農家が、森林劣化の軽減に寄与していることが明らかになった。一方、世界で最も取引されている熱帯商品の一つであるバナナについては、サステナビリティ基準を満たすものが5%から8%程度しかないと懸念を示した。
【参照ページ】Global trade in food and agricultural products more than doubles in last two decades
【参照ページ】The State of Agricultural Commodity Markets, 2020
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