米オープン・ソサエティ財団は7月21日、国際開発金融機関が投資するエネルギープロジェクトが、地域の環境および社会経済に与える影響についてまとめたレポートを発表した。国際金融機関によるプロジェクトファイナンスが、環境問題、貧困問題、人権問題に悪影響を及ぼしていると課題を指摘した。
今回調査の対象となったのは、世界銀行グループ、アジア開発銀行(ADB)、欧州投資銀行(EIB)、ドイツ復興金融公庫(KfW)、ロシア貯蓄銀行、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、欧州復興開発銀行(EBRD)、韓国産業銀行。日本の国際協力銀行(JBIC)は調査対象外。オープン・ソサエティ財団は、投資家ジョージ・ソロス氏が1993年に設立した財団。
1980年代以降、世界経済は380%の成長を遂げたと言われているが、同時に人口増加もあり、一日あたり5米ドル以下で生活を送る貧困人口が11億人増加している。つまり、従来の経済成長モデルは貧困撲滅の観点では機能していないとの指摘があり、また世界の消費活動は、既にバイオキャパシティ(地球が生産・吸収できる生態系サービスの供給量)の50%も上回っているために、経済成長モデルそのものが、機能していないとの見方もある。そのため、昨今世界では、従来の経済成長モデルを抜本的に見直し、新モデルで進める動きが広まっているが、依然として、国際開発金融機関が、環境面や健康面で高リスクと見做されるエネルギープロジェクトに投資し続けていること疑問視した。
同レポートは今回、アルメニアを舞台に、「金融機関のエネルギー投資と環境への影響」「持続不可能なプロジェクト投資と、地域経済における相互関係、および当該投資の成果」の2つの観点から、調査を行った。
その結果、国際開発金融機関が支援したプロジェクト、特に鉱業、水力発電、ダムへの投資は、環境面と人権面においても直接的または間接的に悪影響を及ぼしていることがわかった。例えば、短期利益を重視したプロジェクトは、居住者に適切な補償をせずに移住を強いることがあり、結果的に新たな貧困層を生み出している。また、プロジェクトに対する居住者の意向および参画が無視されていることや、特定居住者が大気中のナノ分子を過剰摂取することで心身の被害が増加することなど、様々な問題点が数多く挙げられた。
こうした影響は、個人間に留まらず、コミュニティ社会全体に影響があるとして、人権の侵害を「健康の権利」「適切な生活水準を保つ権利」「労働の権利」「情報アクセス、意思決定への参加、差別のない扱いを受ける権利」「女性の権利」「その他の権利」の6つに分類し、整理した。
同レポートの最終ページには、国家および民間セクターそれぞれに対して、今後のエネルギー関連プロジェクトを進める上で、指針にすべきポリシーを提示している。
国産人権NGOビジネスと人権資料センター(BHRRC)は、調査対象となった9つの国際開発金融機関に対して、同レポートに対し質問票を送付。EIBは、同レポートの内容と異なり、アルメニアで指摘されたプロジェクトへのファイナンスはしていないと返事した。ADBは、オープン・ソサイエティ財団に謝意と今後の協議を打診した。KfWは、進行中のプロジェクトでの慎重な環境対策を世界自然保護基金(WWF)と共同実施ていることを明らかにした。ロシア貯蓄銀行は言及されたプロジェクトには出資していないと反論のみした。AIIB、EBRD、IFC、韓国産業銀行、世界銀行は回答していない。
【参照】The Impact of International Financial Institutions on the Environment and Socio-Economics: The Cases from Armenia and the World
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