日本経済団体連合会(経団連)は3月31日、経団連が掲げる「Society 5.0」の実現に向けて鍵となる人材の育成についてまとめた提言報告書を発表した。
経団連は2019年1月に、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」を発足。経団連側13人と、国公私立大学の学長9人を委員とし、大学教育と採用のあり方について合計4回議論を行ってきた。必要なナレッジとしては、最終的な専門分野が文系・理系であることを問わず、リテラシー、論理的思考力、規範的判断力、課題発見・解決力、未来社会の構想・設計力などが求められ、これらの能力の修得には、基盤となるリベラルアーツ(教養)教育が重要とした。
そのための教育体系としては、「初等中等教育から多様な考えや能力を伸ばす方向に大きく転換し、失敗を恐れず挑戦する習慣を身に付けさせる」「高校では、文系・理系の垣根をなくし、文系を選択しても理数の基礎知識を身に付け、理系を選択しても人文・社会科学を学ぶべき」と位置づけた。さらに大学教育に置いては、「少人数、双方向型のゼミや実験、PBL型教育、海外留学体験などを拡充することが有効」とした。PBL型教育とは、実践的な課題解決 ( Project BasedLearning :PBL)型のこと。
大学でのPBL型教育では、企業ニーズともマッチングできるコーディネーターを大学に設置することを提言。さらに専門教育については大学院進学を解決策とし、特に大学院への進学率が極端に低い人文社会科学系での進学率改善や、博士後期課程の進学率の上昇を提言した。
また一度社会に出た後に、学びのために大学や大学院に通う「リカレント教育」も重要とした。そのため、企業は「社員の自律的なキャリア形成と主体的な学びを重視する姿勢を打ち出す」「社員の側も専門性を磨き、エンプロイアビリティを高めていくことが必要」とした。特に、日本のキャリア形成文化の一つである終身雇用制度からの脱却を意味する「社員を囲い込む発想からの脱却」を提言した。
その上で、大学教育改革に関する政府への要望事項としては4つを挙げた。
- AI、数理統計、データサイエンスの学部・研究科の新設を政策的に推進。統計学を専門に教えられる人材の育成体制の構築
- 大学等と連携した教育プログラムに、企業が資金協力をするためのインセンティブとなるような税制措置の検討
- 大学設置認可プロセスの迅速化、カリキュラム変更の認可プロセスの簡略化、学部定員規制の緩和、授業の実施場所に関する要件のさらなる緩和(オンライン化等)
- 大学等に対する寄附促進のための措置の拡充、私立大学ではリカレント教育に係る補助金算定ルールの見直し、国立大学では授業料の弾力的設定を可能とする措置
新卒採用活動では、低学年向けのキャリア教育のためのインターンシップと、高学年向けの長期インターンシップを重視。インターンシップは、原則、長期休暇期間に実施することとし、「ワンデーインターンシップ」の名称は使用しないことの周知も掲げた。上記の観点と合わせると、大学では、教養教育と実践型の専門教育を同時に実施していく高い次元での教育と学習が必要となる。また今回の提言では、大学院生については、ジョブ型採用につながるインターンシップを、参加希望の大学と企業にて試行するとした。
今回示された大きな方向性としては、大学での実践体験を重視するとともに、企業が社員を育成しながら生涯面倒を見るという思想から、自立してキャリアを開発していけるエンプロイアビリティの考え方への転換となっている。このとき、企業以上に、社会人の自律的な学びの姿勢が求められていくこととなる。
【参照ページ】Society 5.0に向けた大学教育と採用に関する考え方
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