世界気象機関(WMO)は12月3日、気候変動情報サービスが農業や食料安全保障に与える影響を分析したレポート「2019 State of Climate Services」を発表した。気候変動関連情報サービスが農業や食料安全保障に大きな利益をもたらし、それらに対する投資は十分利益を上げられるとする一方、それらのサービスが十分に必要な人々に届けられていない現状に警鐘を鳴らした。
同レポートは、2018年の気候変動枠組条約締約国会議(COP24)において、気候変動適応ニーズの評価手法開発を目的として、気候変動関連サービスに関する報告を毎年行うようWMOに要請されたことを背景に発行された。同レポート作成のための調査に加わったのは、WMO、国連食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WFP)、世界銀行、世銀防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)、地球環境ファシリティ(GEF)、適応基金(AF)、緑の気候基金(GCF)、国際農業研究協議グループ(CGIAR)。
同レポートはまず、栄養不良の世界人口が2015年の78億人から2018年の82億人へと増加しているとのFAOレポートを基に、その一因として天候や気候の変化があると指摘。農業の年間収穫量の20%から80%が天候によって左右され、収穫損失の5%から10%が気候の短期変動によると推計されている。また発展途上国の農業は、気候変動関連の災害によって26%もの収穫減に苦しんでいる。さらにWFPによると、将来的に気温が2℃上昇すると、新たに1.9億人が食糧難に陥る可能性がある。
そうした中、気候変動関連情報サービスを活用することにより、農家はより良い選択を下せるようになると指摘。サービスとして具体的には、天気予報や火災発生インデックスなどの天候予測、乾季雨季の予測などの気候の短期的変動予測、気候パターンの変化とそれが穀物に与える影響などの気候の長期的変動情報などを挙げている。同レポートでは、これらのサービスを活用することで、毎年300億米ドルの食糧生産増加と、毎年20億米ドルの資産損失の防止をもたらすことができると推計している。投資対効果は10倍とした。水文気象学に限ると投資対効果は80倍とした。
さらに同レポートでは、こうした情報収集からサービス提供への流れが実際に十分構築されているかを地域別に評価した。評価項目は「ガバナンス」、「基盤システム」「ユーザーインターフェース」「サービスへの活用と供給」「モニタリングと評価」「適応能力の構築」の6つ。
地域別の結果を見ると、アフリカと発展途上島嶼国における現状が最も危機的であり、そもそも必要なデータの収集さえも十分に行われていない。また、「モニタリングと評価」に関しては、特に世界全体で不十分であるとした。
その上で、サービス構築への投資の加速が重要だと指摘。こうした気候変動関連サービスに対する投資効果は10倍にもなるにも関わらず、現状の投資は不十分であるとした。すでに世界銀行などによって200近いサービスに計30億米ドルほどの投資が行われているが、こうした投資は断続的にしか行われていない。信頼性のあるサービスを展開するためには、より大規模で、体系的・包括的な投資が求められているとした。
【参照ページ】Benefits of Investments in climate services for agriculture and food security outweigh costs
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