スウェーデン公的年金基金AP2は、同基金の事業活動における人権アクションに関するレポートを発表した。同レポートでは、投資意思決定に置いて、国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)等を人権基準として活用しており、UNGPに違反している企業からはダイベストメント(投資引揚げ)していることを明らかにし、例として巨大な尾鉱ダム事故を起こしたヴァーレを投資除外対象にしていることを明記した。
同レポートは3つのパートで構成。「人権ポリシーとガバナンス」「人権リスクマネジメント」「人権侵害に対する同社対応の例」について言及した。
人権ポリシーとガバナンス
同基金は、2017年に世界人権宣言やUNGP等の国際基準に準拠し、経営陣や社内の専門家との協働の上、人権ポリシーを策定。深刻な人権リスクへの対処が必要となった場合には、ポリシーをさらに厳しくすることにしている。また、人権問題を含むESG課題を投資判断に組み入れることにも積極的に取り組んでおり、ESG観点で投資ウエイトの調整も行っている。
また、委託先運用会社に対しても、UNGP等の含む同基金のガバナンス・ポリシーを遵守することを義務化している。さらに、アセットオーナーとして投資先への対話も重視しており、多くの場合、同基金の倫理委員会を通じて対話を行っている。投資先企業が同社の方針に反する取り組みがあった場合、実態を調査の上、対話を行っても改善されない場合は、投資フォートフォリオからの除外も辞さない。
(出所)AP2
人権リスクマネジメント
投資先企業自身の活動だけでなくサプライヤーを含むステークホルダーの活動を含め、人権のネガティブ・インパクトが大きい投資先企業を優先的に対応する。リスク分析では、投資ポートフォリオ全体の28%を占める上場外国株式を対象に、悪影響を受けうる潜在リスクと、個人やグループがすでに被っている顕在リスクを測定。投資先企業が人権侵害に対して脆弱性が高い地域や文脈を明確化、リスクマネジメント方針やプロセスを制定しているかについても評価する。
同基金は、2019年から2020年にかけ、アセットオーナーと運用会社双方の観点からリスクに関する定量データモデルを内製することを目指している。その結果、例えば高リスク企業に対する予防的な対話の実施等を行うこともできるようになるという。
人権侵害に対する同社対応の例
ブラジル資源大手ヴァーレ子会社のSamarco Mineraçãoが2015年に2カ所の尾鉱ダム決壊事故を起こしたことにより地域や住民、生態系に甚大な被害を及ぼした際に、倫理委員会を通じた対話を実施した。2016年から2017年には、前述のESG観点を組み入れた評価指標を作成。ヴァーレは投資対象から除外した。その結果2018年4月以降、同社はヴァーレの株式を保有していないため、2019年1月のブルマジーニョ尾鉱ダム決壊事故による投資ポートフォリオへの悪影響も免れている。加えて、ダイベストメントを実施し株主でなくなった後も、ヴァーレへのエンゲージメントを継続するため、国連責任投資原則(PRI)を通じた集団的エンゲージメントを実施している。
また同社は、2018年の分析で、農業セクターを課題として特定。同セクターにおける潜在的な人権課題には「従業員と地域社会の健康と安全」「児童労働と奴隷労働のリスク」「地域社会の生活水準への悪影響」「土地権の濫用」「先住民の強制退去」等がある。同社は農地への責任ある投資のためのガイダンスを作成することで対応。同ガイダンスはPRIの管理下にある。2018年に同社の投資先の農場は、地域住民に悪影響を与えているとして、人権団体から批判されたが、同社は地域住民との対話の下、BSD Consultingからの第三者監査を実施する等の対応を行った。
【参照ページ】Andra AP-fonden publishes Report on Human Rights
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