食品メーカーや小売企業世界大手が、原材料調達等のサプライチェーンでサステナビリティ基準を設定する中、フェアトレード認証の社会的意義に関する関心が高まっている。英小売大手セインズベリーは2017年5月、PB商品の紅茶で、フェアトレード認証ラベルではなく、独自の「Fairly Traded」認証ラベルを貼付することを決定。セインズベリーは以前、国際フェアトレードラベル機構が運営する「フェアトレード認証」を世界で最も多く取り扱っていたことを誇っていた企業。現在、フェアトレード認証の紅茶も同社の店舗には陳列されているが、自社PB商品でのフェアトレード認証離れは、大きな反響を呼んでいる。
英紙ガーディアンは7月23日、フェアトレードの将来性について長い論説記事を掲載した。そこでの論点は大きく2つ。1つ目はフェアトレード(FLO)インターナショナルの取り組みとそれに対する評価。2つ目は、独自のプライベート認証制度を始める企業が増加することによる社会的なインパクトだ。
フェアトレードの歴史は、1940年代の米国そして1950年代のオランダと英国での活動に遡る。発展途上国で生産された手工芸品や食品等の購入を通して現地の人びとへの援助を意識した貿易の推進は、NGOや慈善団体を含む様々な組織や個人の協力を得てネットワークを広げ、1989年、World Fair Trade Organization(WFTO)としてオランダに国際拠点が置かれた。1992年、英国では独自にフェアトレード財団が発足。1997年には、公平・公正な貿易について世界共通の明確な基準を示し、基準を遵守した製品にラベルの貼付を認め、継続的な遵守を監視・管理するWFTO傘下組織が設立された。それが、生産者組合と貿易業者等が共同で所有・運営しているフェアトレード(FLO)インターナショナル(フェアトレード機構)だ。
フェアトレード認証は、一定の取引基準を流通事業者に課すとともに、プレミアムと呼ばれる奨励金制度が特徴的。生産基準では、社会と環境の観点があり、社会基準では、「安全な労働環境、民主的な運営、差別の禁止、児童労働・強制労働の禁止」等。環境基準では、「農薬・薬品の使用削減と適正使用」「有機栽培の奨励」「土壌・水源・生物多様性の保全」「遺伝子組み換え品の禁止」等が規定されている。
一方、プレミアム制度は、生産者に対する「最低価格保証」の制度。商品の市場価格が下落しても、所属農業団体等を通して「最低価格」が保証され、生産者に対し企業を通して差分が支払われる仕組みとなっている。フェアトレード(FLO)インターナショナルの承認を受けた75カ国1,240の生産者団体に対し、2016年に支払われたプレミアムは、総額1億5,000万ポンド(約198億7000万円)に上る。
フェアトレード認証は広く知られるようになっており、英国では買物客の93%がこのラベルを認識している。2017年には約90億米ドル相当のフェアトレード製品が販売され、その原材料は166万の農家から調達された。テスコやマークス&スペンサー等の多国籍企業を含む約2,400社が、自社製品にフェアトレード認証を使用するため、自国のフェアトレード支部団体にライセンス料を支払っている。その背景には、消費者が生産者の生活環境等に配慮し、製品の価格が少し高くなっても途上国の人びとに寄与したいというエシカル消費の浸透がある。
フェアトレード機構による取り組みが、多くの消費者の支持を得て、従来の貿易の形態を変えてきたことは、大きな功績だといえる。しかし同時に、いくつかの問題点も指摘されている。その1つは、フェアトレード機構は本当に農民の生活を向上させるインパクトを持ち得ているかという点にある。
農業で生計を立てている農家は、世界中で20億人いると想定されている。その一方、フェアトレード(FLO)インターナショナルのメンバー組織に所属する農家の数は166万人で、全体のごく一部でしかない。また、世界中の市場では、コーヒーだけで2,000億米ドルの取引があるが、フェアトレード(FLO)インターナショナルが扱っている製品は、紅茶、コーヒー、ココア、バナナ等、全体で90億米ドルしかない。さらに、2016年にフェアトレードの認証を受けた製品が最低価格を守って販売できたのは、紅茶が4.7%、コーヒー34%、ココア47%のみだった。残りは買い手が見つからず、最低価格以下で販売することを余儀なくされたという。
その上、セインズベリーの幹部がフェアトレード(FLO)インターナショナルからの離脱理由の一部として言及したように、プレミアムの用途について詳細なデータを示していないとする指摘もある。この点について同団体のスポークスマンは、「農民たちが目標を立て、進捗状況を自分たちでチェックしてほしいと考えていた。透明性を高めるため、今年4月以降は、年額15万ドル(約1638万円)以上受け取っているメンバー組織は、外部の会計検査官を雇うことにした」とコメントしている。
農家の労働状況についても疑問が投げかけられている。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)が2014年に英国政府の助成金によりエチオピアとウガンダで行った調査結果によると、同認証を受けた農場で児童たちが働いていたことが明らかになった。さらに、認証済みの農場の方が無認証の農場より賃金が低く、労働環境が悪いと結論づけた。同団体はこの結論を「歪曲している」として受け入れなかったという。この他にもフェアトレード(FLO)インターナショナルへの批判は根強くある。
企業が、フェアトレード認証から独自の認証に移行する動きは大きく広がっている。セインズベリーが自社ブランドの紅茶の認証をフェアトレードから離脱した際、同社は「試験的に自社による認証制度を導入する」と説明したが、期限には言及せず、永続的な実施と理解されている。該当する製品には、発表の翌週からラベルが張り替えられるという素早さだった。これらの行為は、同社が紅茶に続いてコーヒー、砂糖、バナナ等についてもフェアトレード機構から離脱するのではという意見もあった。
セインズベリーの直後に、食品世界大手モンデリーズは、デイリーミルクをはじめとする数種類のチョコレート菓子を、フェアトレード認証から「ココアライフ」と呼ばれる独自の認証制度へと移行した。ネスレは、2013年に同様のプログラム「ココアプラン」を立ち上げている。ネスレとモンデリーズの2社で英国のチョコレート市場の約40%を占めており、このインパクトは極めて大きい。
また、スターバックスには「CAFEプラクティス」という認証があり、スイスのココア製造業者バリーカレボーには、「ココアホライゾン」がある。さらに米国のココア製造業者大手カーギルには「ココアプロミス」がある。これらの企業には、フェアトレード機構による認証、あるいはレインフォレスト・アライアンスなど、他の機関による認定を受けた製品がまだいくつかあるが、その比率は減少している。
ガーディアンは、企業が独自認証に移行する動きを、「ビジネス推進が目的であり、公正な取引からの後退」とする専門家の意見を紹介している。さらに、消費者に対し環境配慮を装う「グリーンウォッシング」の危険もあるとする声も紹介した。しかし、それは企業自身のアクションを軽視しているとも言えるだろう。実際に、企業の基準策定やモニタリングには、第三者企業やNGOと協働することも多く、フェアトレード認証と運営上の違いがあるとは必ずしも言えない。さらに、企業の独自基準のほうが、既存の認証よりも厳しい基準を課していることすらある。
実際、2018年10月、英フェアトレード財団の評議員会会長を務めるマーク・プライス卿は、今後のフェアトレード(FLO)インターナショナルの役割について、フェアトレード認証の業務は継続しつつ、独自の認証制度を進める企業へのコンサルタント業務も行うべきと発言。独自基準推進への旗印を見せている。
今回の論説に対し、英フェアトレード財団自身もホームページ上で即反応を見せた。その文書によると、フェアトレードは、世界最大の独立的なサステナビリティ基準機関として公正な取引や、生産者への資金提供に大きな成果を残してきたものの、フェアトレード機関だけが問題を解決できると振る舞ってきたことはないと主張。ファアトレード認証だけでは構造的な貧困等の課題に立ち向かえないと伝え、ガーディアンの「フェアトレード認証特別扱い」的な主張には距離感を示した。
【参照ページ】FAIRTRADE RESPONSE TO GUARDIAN LONG READ ARTICLE 'IS FAIR TRADE FINISHED'
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