国際エネルギー機関(IEA)は6月14日、水素エネルギーに関する分析及び提言レポートを発表した。水素エネルギーを気候変動対策として重要な技術として認識する一方、水素エネルギーの生成過程で二酸化炭素排出量を出さない「Clean Hydrogen」が重要ということを改めて確認した。また実用化に向けてはコスト削減が必要なものの、インフラ開発は非常に遅いとして、各国に開発促進を促した。
今回のレポートは、G20議長国である日本政府の依頼で作成し、G20エネルギー・環境相会議を直前に発表するという、非常に政治色の濃い内容となった。経済産業省は、長年IEAの幹部ポストを一つ確保しているほど、IEAは政治的にも巻き込みやすい国際機関。昨今、日本政府は、IEAを通じた国際的な意見醸成に力を入れている。
同レポートは、Clean Hydrogenの実現方法について、天然ガス等の化石燃料を原料としつつ炭素回収・貯蔵(CCS)技術を導入して炭素を回収する方法と、再生可能エネルギー電力で水を電気分解する2つの方法があると明記。日本が推すCCS技術を用いた水素生成を明確に「一つの手法」と位置づけることに成功した。
また、天然ガスパイプライン等の既存設備を水素インフラとして活用することも提言。水素貿易の第1号航路を開くべきともし、オーストラリアから水素輸入を目指す日本の政策とも一致する内容となった。
日本政府は6月15日、G20エネルギー・環境関係閣僚会合の場を活用し、さらに布石を打った。経済産業省(METI)、欧州委員会エネルギー総局(ENER)、米国エネルギー省(DOE)の3者は、水素・燃料電池技術に関する三国・地域間の協力を強化することを確認する共同宣言を発表。結束を固め、規格・基準のハーモナイゼーション等を共同で推進すると謳った。この宣言の裏には、日本が意図した「韓国外し」があると見られている。
民間企業の分野では、2017年の世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で「水素協議会」が発足。日本企業が参加に出遅れた一方、現在共同議長には仏エア・リキードと韓国の現代自動車が就任している。現代自動車は、日本企業より出だしは遅れたものの、近年急速に水素エネルギー分野に注力してきている。日本政府は、政治的には日米欧の3者のみで集まり、韓国や今後台頭してくる可能性のある中国を引き離したい考えといえる。
但し、日本の戦略にも落とし穴が潜んでいる。日本はIEAを通じた国際意見形成に傾斜しているが、水素エネルギーが主眼に据える気候変動の関係者の間では、IEAは政治色の強い機関という認識が強く、IEAが発表する予測やレポートへの懐疑心がますます強くなっている。6月に英ロンドンで開催されたESG投資家の会合でも、IEAのシナリオやCCS重視の姿勢を批判する意見に対し、会場からは同イベント最大級の拍手が送られていた。IEAばかりに頼っていると足元を掬われる可能性がある。
【参照ページ】International action can scale up hydrogen to make it a key part of a clean and secure energy future, according to new IEA report
【参照ページ】日米欧で水素・燃料電池に関する共同宣言を発表しました
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