国際海洋NGOのGlobal Fishing Watch(GWF)は12月18日、2018年を「漁業の透明化元年」とする声明を発表した。官民の衛星データやマシンラーニング(機械学習)技術を駆使し、違法・無報告・無規制(IUU)漁業に関与する漁船を捕捉する。GFWは、米グーグル、国際海洋NGOのOCEANA、国際漁業NGOのSkyTruthの3者が運営団体となっており、人工衛星等から取得した漁船の位置情報等を解析し、地図上に漁船の活動状況を表示するサービスを展開している。
乱獲につながるIUU漁業は、近年大きな問題になりつつある。現在世界の漁獲量の5分の1はIUU漁業で獲られたもので、金額は235億米ドルに上る。これにより、漁業全体では毎年830億米ドルの水揚量が減少している。現在世界の人口の32億人が、生存に必要なたんぱく質を魚から得ており、水揚量の減少は健康と生命に関わる。
IUU漁船の取締は従来、船舶の追跡拿捕によって実施されてきたが、より効率的な手法が必要となってきている。例えば、2018年4月には、モザンビークに拘留中されていた国籍不明の密漁船が脱走。国際刑事警察機構(インターポール)や国際環境NGOシーシェパード等が追跡を行ったが逃げ回り、ようやく3週間後にインドネシア海軍が拿捕するという事件があった。このようにIUU漁船取締は膨大なコストがかかる。
GWFは、IUU漁業取締で、より効率的なソリューションを提供している。GWFのシステムでは、各船舶が発するAIS(自動船舶識別装置)信号を人工衛星でキャッチし、各国政府当局の人工衛星を用いた船舶監視システム(VMS)のデータ、赤外線センサー、レーダーセンサー情報等を統合的に解析し、マシンラーニング技術を用いて船舶から漁船を特定すると共に、漁船行動パターンや漁具等も推定できる。
GWFの技術には各国政府当局も大きな関心を寄せており、2017年6月にはインドネシア政府がVMSデータをGFW経由で公開すると発表。その後、ペルー、コスタリカ、パナマ、ナミビアも協力を表明した。2018年11月には、米沿岸警備隊(CG)の研究開発センター(CG RDC)も提携を発表。オープンソースの漁船移動データ、漁獲量データ、衛星画像等を総合的に解析する分析手法の確立する等の研究を共同で行うという。
GWFは創設団体3者が2015年に発足。さらにレオナルド・ディカプリオ財団、ウォルマート財団、ブルームバーグ・フィランソロピーズ、ゴードン・アンド・ベティ・ムーア財団等10財団も資金拠出し、国連食糧農業機関(FAO)、米海洋大気庁(NOAA)、ブリティッシュコロンビア大学等も研究協力している。2017年にはNGO法人化し、解析結果を無料で提供している。
GWFは、2019年1月に新たなデータ解析プラットフォームをリリースする予定。開発資金はブルームバーグ・フィランソロピーズが提供し、これによりCG RDCとの共同作業環境が整った。
GWFの発表によると、まぐろ、かじき、サメ等の延縄漁業が世界の漁業の45%を占める。また公海での漁業の85%は、中国、日本、スペイン、韓国、台湾の5ヶ国が占めており、延縄漁業の対象となる種では乱獲が進んでいることや、公海漁業の半数以上は赤字になっており、低賃金労働やときには現代奴隷労働も横行しているとも発表している。
【参照ページ】Global Fishing Watch 2018 – the year in transparency
【参照ページ】Our global initiatives focus on expanding fisheries transparency and understanding the behaviours of commercial fishing vessels.
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