人間とロボットとの共同作業に関する研究は、自動車製造から宇宙の探索まで、さまざまな分野で展開されている。多くの研究者たちは、遠隔操作ではなく、人との会話や人の動作の認知を通して共同作業を効率的に行う人型ロボットやアーム型ロボットの設計を進めており、中心的なテーマの一つは「ロボットはよいチームメイトになれるか」。
この分野での第一人者の一人であるマサチューセッツ工科大学航空宇宙学科インタラクティブ・ロボティックス・グループを主導するジュリー・シャー准教授は、多様な場で実証研究を重ねつつ人とロボットとの共同作業の可能性や課題に関する論文を発表した。実証研究の場の1つとなったのは、マサチューセッツ州ボストンにあるハーバード大学附属病院ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカルセンターの産科にあるナースステーションだ。
シャー准教授たちは、高度な専門性をもつリソースナースたちが行う入院患者への病室の割り振りや担当ナースの決定等の業務を、ソフトバンクロボティクス製の小型人型デスクトップロボットに組み込んだ意思決定支援システムが行えるように開発した。このロボットの活用により、ナースたちはより複雑な意思決定を必要とする業務に集中できるようになった。当初は懐疑的だったナースたちも、ロボットが自分たちの決定と同等、あるいはそれ以上の提案をするのを目の当たりにし、「非常に役立つかもしれない」と認識を新たにしたという。
このデスクロボットが内蔵する意思決定支援システムは、トレーニング中のナースと同じ手法として、経験豊富なナースのスキルを習得できる機械学習アルゴリズムの開発によって機能するようになった。アルゴリズムの開発に向けては、2015年後半から、患者の容体の変化、予定外の新患、帝王切開等の様々な状況下で、患者にどの部屋とどのナースを割り当てたかについて、同センターの産科に所属するリソースナース7人の行動をコンピュータでシミュレートし、3,000件以上の決定の記録を基に構築した。
デスクロボットによる学習は非常に迅速に進み、すべての可能な決定の適合性をランク付けして提案するため、今では90%以上の提案がリソースナースたちに受け入れられるようになっている。ただ現段階では限界がある。それは、例え技術的には正しくても、個々のナースが直面している決定には直接関係のない提案が多くなされる事で、ナースにとっては非常に煩わしく、この点が大きな課題とされている。シャー准教授たちは、より個別的な提案ができるよう模索を重ねている。
よいチームメイトになるためには、パートナーの動きを予測することも重要だ。現在、工場のフロアで稼働するロボットは、安全上の理由から、人が近くにいると動きを停止するように作られている。シャ―准教授たちは2014年にモーションキャプチャーシステムを利用し、人がまっすぐに歩き、方向転換する際の頭の向きと身体の速度を追跡した。そしてそのデータを使って人が向きを変える2歩手前で、どちらの方向に進むかを予測するアルゴリズムを開発した。昨年には、このアルゴリズムとマイクロソフト社が開発したキネクトモーションセンサー(ジェスチャーや音声認識によりロボットを操作できるシステム)とを組み合わせることにより、10分の1秒ごとに人の動きに基づいてロボットが動きを調整できるようになった。
ミュンヘンにあるBMWの施設で実証実験を行った際には、シミュレーションとデモンストレーションの両方でこのシステムは機能し、ロボットが安全に関連する理由で停止しなくても業務を遂行できることが確認された。課題としては、このような技術を搭載したロボットが、人のチームメイトとして大規模工場で活動できるようにするためには、モーションセンシングを初めとする技術の更なる開発が必要だという。しかしこのような課題が克服できれば、今後2年から3年以内には導入が可能になるだろうと関係者たちは述べている。
シャー准教授たちの実証研究は、国際宇宙ステーションでも進められている。NASAエイムズ研究センターのテリー・フォン氏は、アストロビーという名のフリーフライングロボットのシステムを開発しており、近日中に国際宇宙ステーションで稼働する予定となっている。アストロビーは、宇宙ステーション内の騒音レベルや大気質などの環境の調査、微小重力の環境下で必要な物を探し出す機能に加え、 シャー准教授たちとの協働により、工場ロボットと同様に人の動きを予測し、自らの作業を調整することが可能となった。フォン氏は、「ロボットは壁や機器にぶつかるのを避けることができるが、人のような動きを伴う対象を避けることはずっと難しい」と述べている。
人間とロボットとのチームメイトの構築をより広義に捉えると、自動車の自動運転技術もその一端といえるかもしれないが、自動車の場合は、むしろ人間の関与を最小にする方向に進んでいるようだ。今回見てきたシャー准教授たちの実証研究は、人とロボットがチームメイトとして積極的に関わり合い、学び合い、協働することで、よりよい関係を築き、それを結果に繋げようとしている点が注目される。
【参照ページ】Inner Workings: Can robots make good teammates?
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