フェイスブックは11月5日、同社のSNSサービスがミャンマーでのロヒンギャ問題での民族対立や社会的分断を悪化させたとの批判を受け、ミャンマーでのサービス提供に関する第三者の人権インパクト・アセスメント・レポートを公表した。アセスメントは米サステナビリティ推進NGOのBSRが実施した。結果を受けフェイスブックは、もっと早く対策を講じるべきであったと自戒の念の述べた。一方で様々な課題を抱えるフェイスブックに対しては、「対応が遅すぎる」との批判の声も上がっている。
今回の件は、9月19日に国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が公表したロヒンギャ問題に関する包括的な調査分析報告書の中で、フェイスブックを始めとするソーシャルメディアもミャンマーでのロヒンギャへのヘイトスピーチを伝播する役割を果たしていたと発表していたことがある。
人権インパクト・アセスメントは、同社による直接的な人権違法行為や法的責任を調査するものではなく、同社の事業が引き起こす人権影響を評価するもの。今回評価を担当したBSRは、国連人権とビジネスに関する指導原則(UNGP)や同社も加盟する「Global Network Initiative」の規範等を基に、人権インパクトを分析し、提言をまとめた。人権には、世界人権宣言が規定するもののうち、「生命、自由及び身体の安全に対する権利」「プライバシーの権利」「表現の自由」「児童の権利」「差別禁止」「文化へのアクセス」「生活水準」を対象とした。
同レポートは、フェイスブックは、表現の自由が政治的に制約されていたミャンマーで「表現の自由」を強化するというプラスの側面をもたらしたとしつつも、同時にヘイトスピーチを伝搬し社会的分断を助長する役割を果たしたとした。人権を侵害するヘイトスピーチに対しては昨今、「表現の自由」の保護対象とはならないという概念が国際的に広まっている。またミャンマーでは、テクノロジーが一気に進化しソーシャルメディアが規範意識が緩い中で拡大したという背景もあり、フェイスブックがもたらす悪影響リスクも高まっていたと分析した。
フェイスブックのこれまでの対応については、ヘイトスピーチ助長のため対策を求める声がNGO等を含め様々なステークホルダーが同社に寄せられていたことにも言及。フェイスブックが策定している「コミュニティ規定」に対しても、規定のあるなしではなく、実効性が必要との見地から、対策が不十分と断じた。ミャンマーは2020年に大統領選挙を控えていることも、将来の重大な人権リスクと位置づけ、早急な対策が必要とした。
これに対し、フェイスブックは、人権インパクトを事業に取り込むため、人権専門家の採用を進めていると表明。ヘイトスピーチ投稿を発見するための人工知能(AI)開発や、講じている対策の公表強化の考えも示した。
これら一連の動きに対し、国連ビジネスと人権に関する指導原則発足者の中心人物のひとり、ジョン・ラギー・ハーバード大学教授は11月15日、外部からの声に耳を貸さず、対応が後手に回っているフェイスブックの体制を大きく問題視。ミャンマーだけでなく、エジプト、インド、フィリピン、スリランカ、ウクライナでも同様の負の人権インパクトをもたらしていることにも言及した。負の人権インパクトを削減するためには、新サービス投入やサービスの新市場投入の際に人権デューデリジェンスを実施することが重要と強調。さらに負のインパクトが発生した際には、改善措置を施すことが企業の義務と述べた。
【参照ページ】An Independent Assessment of the Human Rights Impact of Facebook in Myanmar
【参照ページ】Our Human Rights Impact Assessment of Facebook in Myanmar
【レポート】Human Rights Impact Assessment, Facebook in Myanmar
【参照ページ】Myanmar: UN Fact-Finding Mission releases its full account of massive violations by military in Rakhine, Kachin and Shan States
【参照ページ】FACEBOOK IN THE REST OF THE WORLD
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