世界銀行は10月23日、食品中の細菌、ウイルス、寄生虫、毒素、化学物質等を起因する疾患を指す「食品媒介疾患」の現状を分析したレポート「The Safe Food Imperative: Accelerating Progress in Low-and Middle-Income Countries」を発表した。「食品媒介疾患」による低・中所得国における年間総生産性の損失は952億米ドル(約10.7兆円)、年間治療コストは150億米ドル(約1.7兆円)と推定した。この他にも農業や企業の売上損失、貿易収入額の減少、腐敗しやすいが栄養価の高い食品を避けることによる消費者の健康への影響、食品廃棄物による環境への悪影響等があり、これら定量化が難しいものを含めると人間社会に多大な悪影響を与えていることがわかる。
世界保健機関(WHO)が2015年に発表したデータによると、食品媒介疾患は、世界で毎年約6億人の罹患と42万人の死を招いている。食品媒介疾患の負荷は、南アジア、東南アジア、サハラ以南アフリカ等の低・中所得国に偏在している。これらの地域は世界人口の41%を占めている一方、食品媒介疾患全体の53%、関連死亡者数の75%が集中。中でも年間総生産性の損失が300億米ドル(約3.4兆円)を超える中国を初め、インド、インドネシア、ナイジェリア、タイ、ブラジル、南アフリカ、エジプト、パキスタン、バングラデシュが年間総生産性の損失が最も大きいワースト10として挙げられている。さらに5歳未満の子供は、世界人口の僅か9%にも拘わらず、罹患者全体の約40%及び関連死亡者数の約30%、12万5,000人を占めている。
食品媒介疾患の中で最も多いのは下痢性疾患であり、毎年5億5,000人が罹患し、23万人が死亡している。子供のリスクが非常に高く、2億2,000万人が罹患し、9万6,000人が死亡。ノロウィルス、カンピロバクター、非チフス性サルモネラ属菌、病原性大腸菌等で汚染された生あるいは加熱が不十分な肉、卵、生鮮食品、乳製品による罹患が多い。食品媒介疾患は、不衛生な水、生産や貯蔵時の不衛生な状態、さらには識字率や教育水準の低さ、食物衛生に関する法制度の不備等も要因となっているとWHOは分析している。
世界銀行食糧農業グローバル・プラクティスのユルゲン・ヴェゲレ・シニア・ディレクターは、食品媒介疾患には政治的な関心が低いと警鐘を鳴らす。食品の安全性をより重視することで、各国は農家や食品産業の競争力を強化し、人的資本を開発することができると、対処療法ではなく根本解決を呼びかけている。また、同レポートを共同執筆した世界銀行のスティーブン・ジャフィー農業経済学者も、基礎知識、人的資源、インフラへの投資で、食品の安全、人の健康、環境保護への投資のシナジー効果を理解し、公共投資を活用して民間投資を押し上げる「スマートな投資」が必要と強調する。
今回のリポートは、食品の安全規制へのアプローチの転換も促している。従来のアプローチでは、主として製品テストや設備の検査による法令遵守の徹底および違反に対する法的・金銭的なペナルティの適用に取り組んできた。しかし今後必要とされるのは、関連分野の管理者や経営者に対して情報を初めとする様々なリソースを提供し、安全規制を遵守するような動機付けやその強化に重点が置かれる必要があると言う。食品の安全管理の改善は、特に貧困、飢餓、ウェルビーイングに関連する持続可能な開発目標(SDG)の達成に大きく貢献する事にも繋がる。
【参照ページ】Food-borne Illnesses Cost US$ 110 Billion Per Year in Low- and Middle-Income Countries
【レポート】The Safe Food Imperative : Accelerating Progress in Low- and Middle-Income Countries
【参照ページ】WHO’s first ever global estimates of foodborne diseases find children under 5 account for almost one third of deaths
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