チリのアタカマ塩湖は、極度の乾燥地帯である一方、世界で最も豊かな高品質リチウムの鉱床として知られている。米地質調査所(USGS)によると、2017年のチリ全土のリチウム埋蔵量は750万tで世界で最多。アタカマ塩湖では、リチウム製造の世界大手米アルベマールとチリSQMがわずか約4.8km離れた場所で操業している。
近年、両社間では採掘量を巡る紛争が起きており、その根底には、携帯電話やパソコンに加え、電気自動車(EV)用バッテリーの需要が拡大する一方、リチウム鉱床の水源が枯渇する懸念が深まっていることがあると見られる。
同地でのリチウム採掘は、塩湖に点在する鉱床を通して地下1.5mから60mの場所からポンプで塩水を汲み上げ、水分を蒸発、資源を濃縮させる方法で行われている。採掘企業はチリ産業開発公社(Corfo)や環境省等の許認可の下で採掘しているが、紛争の発端となったのは、2013年にチリ政府の検査官がSQMの施設内で同国原産のアルガロボの木が落葉し、枯死していたのを発見したことだという。アルガロボは、地下帯水層深くに根を張ることによって砂漠でも生息する、極めて耐性のある広葉樹。
枯死していたアルガロボは23本。これは、当局がSQMに対し、アカタマ塩湖で水問題が発生した際の早期のシグナルとして監視を指示していた樹木本数の3分の1に相当する。ロイター通信が確認した政府の検査報告書によると、その2年後にはより多くの樹木が枯死したが、SQMは当局に通知していなかったという。
これにより近隣で操業しているアルベール子会社のロックウッドリチウムは、SQMが許可されている以上の量を塩湖から採水しているとすれば、埋蔵量および他のプロジェクトに悪影響を及ぼす可能性があるとして、2017年3月に規制機関に調査を求める書類を提出。SQMは4月に反撃し、アルベマールが2008年と2010年から2012年の間に塩湖から過剰採水を行い違法性を認めた上で、今回「環境保護者」を名乗りSQMを批判していることを「常軌を逸している」と規制機関に訴えた。
チリ産業開発公社は2018年3月、塩湖の水の利用可能性に関する新しい調査結果を環境省の規制担当部署に提出。アカタマ塩湖では、降雨と降雪による貯蔵を上回る水量および塩水量が、ポンプによる採水や蒸発によって消失しているという内容だった。しかしこの調査では、塩湖で操業している銅・リチウム採掘企業のうち、どの企業が水量不均衡の原因となったのかを特定することはできなかった。その背景として、規制当局が地下帯水層の状況を正確に把握していない状況があると見られる。そのため当局は、採水を制限する措置を講じる必要があると判断し、現在はその準備中。
この問題で最大の焦点となっているのは、政府も採掘企業も、アカタマ塩湖の水の残量を推定できていないこと。アルベマールもSQMも、「今後の操業に十分な量を確保している」と公言しつつ、規制機関に対してはライバル社の違反による過剰採水が水の枯渇に繋がる恐れがあることを強く訴えている。
同地域では先住民用の水の確保も課題となっており、今後の展開は不透明さが増している。
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