英国歳入関税局(HMRC)は9月22日、2018年度に最低賃金以下の報酬しか得られなかった労働者が20万人以上いたと発表した。この数字は前年度の2倍で、1999年に最低賃金制度が導入されて以来、最多となった。最低賃金の未払い総額は1,560万ポンド(約23.1億円)。同局は特定したすべてのケースについて遡及支払いを命じたという。雇用主にとって最低賃金の支払いは法的義務であり、違反した雇用主には前例のない総額1,400万ポンド(約20.8億円)の罰金が科せられた。
2018年4月に改正された英国の最低賃金は以下の通り。この内、25歳以上については、政府が2016年4月に導入した「全国生活賃金」(National Living Wage)に基づいて算定されており、2020年までに平均賃金の6割程度に引き上げることを目標としている。
- 25歳以上:7.83ポンド(約1,161円)
- 21歳~24歳:7.38ポンド(約1,094円)
- 18歳~20歳:5.90ポンド(約875円)
- 18歳未満:4.20ポンド(約623円)
- アプレンティスシップ(企業等の見習い・訓練中の19歳未満または初年度の労働者):3.70ポンド(約548円)
今回、歳入関税局がこのような多数の違反者を特定した背景には、最低賃金に対する雇用主の意識向上およびコンプライアンス促進と、労働者・雇用主の双方に違反によるリスクを強く訴えかけた同局主導による方策がある。2019年度には2,630万ポンド(約39億円)の政府予算が投じられ、文書、ウェビナ―、公示、メディアキャンペーン等の広報活動に加え、ビジネス・エネルギー・産業戦略省による雇用主へのガイダンスを含む多様な戦略が展開されている。今年は、派遣労働者、移民労働者、アプレンティスシップが多く、最低賃金の不遵守が他業種より広範に及ぶと目されているソーシャルケア、小売業、倉庫業、ギグエコノミーの分野を優先させたという。
大きな成果につながった方策の一つは、歳入関税局の調査が入る前に実施された雇用者によるパイロット・スキーム(実験的プログラム)への参加の呼びかけ。56社が参加し、700人弱の労働者に対して約25万ポンド(約3,700万円)の遡及支払いが行われたという。さらにHMRCは2014年以来、違反者の名前を公表する方針を取っており、今年はこれまでで最多となる600以上の雇用者名を明らかにした。
一連の活動により、現在は10人中9人の労働者が「全国生活賃金」を意識するようになったという。英国における賃金の水準は、この他に労組や宗教団体、非営利組織などで構成されるLiving Wage Foundationによって推奨されている「生活賃金(Living Wage)」がある。これは最低限の生活の維持を基にして設定されており、最低賃金制度のような遵守義務はなく、導入は雇用主の裁量に任されている。18歳以上の労働者が対象で、適正な導入が認められた雇用主は同組織から認証が授与される。2016年11月時点で約2,900の雇用主が認証を受けたという。
HMRCのペニー・シニエヴィツ顧客コンプライアンス統括責任者は、最低賃金未満しか受け取っていない心当たりのある人は、労働紛争に関する公的な助言・仲裁機関ACASや政府ヘルプライン、苦情申請オンラインフォームから申告するよう呼びかけている。
【参照ページ】Record £15.6 million underpayment identified for workers on the minimum wage
【参照ページ】National Minimum Wage and National Living Wage rates
【レポート】NATIONAL LIVING WAGE AND NATIONAL MINIMUM WAGE
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