ノルウェー財務大臣設置の委員会は8月24日、ノルウェー公的年金基金GPFGに対し、石油・ガスダイベストメントを実施するべきではなく、石油・ガス関連企業への投資を継続すべきとの提言をまとめた。提言書は財務大臣に提出される。
GPFGは、公的年金基金だが、同国の主要産業である原油・ガス収入の運用基金でもあり、運用資産総額は約100兆円と世界有数の規模。GPFGは、石炭や人権等の分野ですでにダイベストメント(投資引揚げ)を実施しているが、さらに石油・ガス分野でもダイベストメントを進めるかについて慎重な議論がなされてきた。
同委員会は、2018年2月に財務大臣が設置。ノルウェー銀行理事を務めるØystein Thøgersen氏が委員長に就任。委員にはHarald Magnus AndreassenとOlaug Svarvaの両氏が選ばれた。同委員会のミッションは、GPFGがFTSEラッセルが「エネルギーセクター」と分類する株式に投資しつづけることの当否を評価すること。GPFGが2017年末時点で、エネルギー株に3,150億ノルウェークローネ(約4.2兆円)投資しており、GPFGの運用資産総額の4%を占める。
GPFGの石油・ガスダイベストメントについては、GPFGの運用を担うノルウェー銀行が、実施すべきとの提案が2017年11月にまとめた。ノルウェー銀行は、原油価格と石油・ガス関連企業の株価は連動しており、石油・ガス株式を手放すことで、運用資産全体の運用ボラティリティを低減できるとの見解を示した。同委員会はこれに対し、原油価格と石油・ガス関連企業の株価が連動することには同意しつつも、石油・ガスダイベストメントで得られる将来リターンは軽微であり、将来原油価格下落も確実でないことから、石油・ガスダイベストメントは将来への「保険」としての効果は低いと判断した。
さらに同委員会は、幅広い投資分散を行い、投資除外には高い基準を課すという現行の投資戦略は、基本的に上手く機能しており、いたずらに石油・ガスダイベストメントを実施することはリターンを下げ、リスクを高めると言及した。GPFGは、そもそもキャッシュインの多くを原油・ガス収入から得ており、原油・ガス価格変動のリスクをとってきており、投資運用においてのみ石油・ガスを除外することの効果は薄いという見方を示した。そのため、もし原油・ガス価格変動リスクを考慮するのであれば、ノルウェー沖の原油資源採掘権益を売却することのほうが先だろうとした。また、GPFGの気候変動リスクを考慮するのであれば、気候変動リスクにさらされている個別企業銘柄毎に判断すればよいだけだとし、石油・ガスダイベストメントの必要性を退けた。
GPFGのガバナンスは、最上位にノルウェー国会があり、法令の下でノルウェー財務省が監督し、ノルウェー銀行が運用を実行するという仕組み。今回の同委員会は、国会での議論の前に、ノルウェー財務省として見解をまとめるための提言という位置づけ。国会では、多数派となった野党はダイベストメント支持し、少数与党は否定的な立場を示している。
ノルウェーの金融機関に対して化石燃料ダイベストメントを推進してきた国際環境NGOグリーンピース・ノルディックは、今回の委員会提言に対し、ノルウェー銀行のダイベストメント提案を多くの関係者が支持している中、専門家委員会は誤った分析を行ったと非難。ノルウェー政府に対し、同委員会の提案だけを鵜呑みにせず、幅広い観点での意思決定を求めた。
ノルウェー銀行と委員会は、双方とも純粋な財務リターンの見地から、石油・ガスダイベストメントの是非を論じ、意見が分かれる格好となっている。
【参照ページ】The Government Pension Fund Global should still be invested in energy stocks
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