欧州連合(EU)は6月28日から6月29日まで、ベルギー・ブリュッセルでEU加盟28カ国の首脳会議を開催し、激論の末に移民・難民問題の対応策で合意した。欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長(EU大統領)が明らかにした。EU加盟各国では、国内で移民受け入れに対する反発が高まり、国政選挙を左右する重大テーマとなっている。
今回の首脳会議は、移民問題をきっかけにドイツの連立政権が崩壊する危機が生じ、さらにリビア沖で救助された移民629人の寄港をイタリアとマルタが拒否し、最終的にスペインが人道的な見地から受入れを決める等、社会不安が高まる中で開催された。
今回の合意文書ではまず、2015年以降の移民規制措置強化により、違法移民の流入が95%減少したことを評価しつつ、各移民流入ルートでの監視をさらに強化する必要があるとの見解で一致。現在主要ルートには、トルコからルーマニア、ブルガリア、ギリシャへの東地中海ルート、チュニジア・アルジェリアからイタリアへの中央地中海ルート、モロッコからスペインへの西地中海ルートの3つがある。国連移住機関(IOM)によると、2018年年初から6月26日までで、東地中海ルートで13,120人、中央地中海ルートで16,326人、西地中海ルートで17,045人の移民が到着した。
また、不法移民は、密航業者に費用を受け取るかたちで進められ、地中海の渡海途上で沈没し命を落とすケースも頻発している。そのため今回、移民が密航船に乗るのを思いとどまらせるための措置として、EU域外に「入国プラットフォーム」の設置検討を、EU理事会と欧州委員会に対し要求。同プラットフォームは、関係するEU以外の国や、国連難民高等弁務官(UNHCR)、国連移住機関(IOM)とも連携する。
さらに、各加盟国に対し、違法移民の厳重な取締りとEU域外への送還を要請。欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)の機能強化や、流入ルートの窓口となっている加盟国への迅速なEU予算の配布も決定。欧州委員会が移民の送還に関する法制化の動きを歓迎した。
今回の首脳会議は、政局に揺れるドイツにとって非常に重要な首脳会議となった。移民に強硬的な立場を示したドイツのゼーホーファー内相は、内務省が管轄する警察権を発動し、国境で移民を強制的に追い返すべきと主張。一方、メルケル首相は、EUにとっての主要原則の一つである域内移動の自由が失われると反発し、ゼーホーファー内相の解任も辞さない姿勢を見せた。すると、ゼーホーファー内相は、内相の辞任と同時に連立与党キリスト教社会同盟(CSU)の党首も辞任すると表明し、連立離脱の可能性も出てきていた。CSUが離脱すると、メルケル連立政権は国会での過半数を割ってしまう。ぜーホーファー内相は、メルケル首相に6月末までに結論を出すよう求めていた。
そのため、メルケル首相は、首脳会議の場で、合意文書の作成とは別に二国間での政治的な合意も複数実施。ドイツとオーストリアとの国境に到達した移民のうち、窓口国がギリシャとスペインだった場合は両国が当該移民を受け入れることで首脳同士が合意。但し、イタリアはドイツに到達した移民を受け入れることに難色を示した。今回の首脳会議でも最も強硬な反発をしたのがイタリアだった。首脳会議後、ゼーホーファー内相は7月1日、「首脳会議での合意は不十分」とCSUの会合で話し緊張感が高まったが、7月2日にメルケル首相とゼーホーファー内相との間で協議が実施され、難民登録してEU内に入った移民をドイツ国境でEU規則に基づき送還する「トランジットセンター」の設立で合意。その後、ゼーホーファー氏は、内相とCSU党首の双方の辞意表明を撤回した。背景には、CSU所属の国会議員からも多数、首脳会議で合意をまとめたメルケル首相を評価する声が出ていたこともある。
さらに7月5日、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)、ぜーホーファー氏が党首のCSU、最後まで移民政策への難色を見せていた社会民主党(SPD)の連立3党で合意がまとまり、連立崩壊の危機は回避された。この合意では、7月2日の「トランジットセンター」設立も撤回され、既存の警察施設で登録難民の送還手続きを48時間以内に実施し、ドイツとの間で難民送還に関する二国間協定がある場合には、国境で難民の入国を拒否することが決まった。
【首脳会議合意】European Council meeting (28 June 2018) – Conclusions
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