都市緑化に関する国際学術誌「Urban forestry & Urban Greening」は5月、論文「Declining urban and community tree cover in the United States」を掲載。ヒートアイランド現象が進行する中、全米50州およびコロンビア特別区では、毎年175,000エーカー(約70km2)に相当する3,600万本の樹木が消失しており、その多くは中核都市とその郊外で発生。準郊外でも消失が見られるという。
論文は米農務省林野局(USFS)のデビッド・ノワック氏ら研究者が発表。調査は、全米50州とコロンビア特別区で対象地域を1,000ヶ所無作為に選定し、グーグルアースで2009年と2014年の画像を比較するという方法で行われた。
この期間、全体的な樹木被覆率は40.4%から39.4%に減少。そのうち、オクラホマ、ロードアイランド、オレゴン、ジョージア、コロンビア特別区等の23州・特別区は統計的に有意な年間減少率を示した。25州は僅かな減少または増減なし。有意でない増加が認められたのは、ミシシッピ、モンタナ、ニューメキシコの3州だけだった。その一方、不透水面積は25.6%から26.6%に拡大していた。
樹木被覆率減少の原因についてノワク氏らは、都市人口の拡大に伴う開発、樹木の老化による枯渇、暴風雨、特にハリケーンによる被害、昆虫による被害、森林から他の用途への転用そして火災によるものだと解説している。2012年にも今回より小規模な調査を行っているが、その際は20都市のうち17都市で統計的に有意な樹木の消失が確認された。これらの結果は一時的な消失を意味するのか、それとも継続的・段階的な消失を意味するのかを見極める必要があるという。
樹木の消失は、経済的な影響も指摘されている。汚染された大気を浄化し、二酸化炭素を吸収・蓄積し、建物を遮光して冷却エネルギーを節約する等、樹木の経済的効用を計算すると、年間3,600万本の樹木の消失は、約9,600万米ドル(約106億円)以上の損失に繋がるという。
特に冷却に関しては、樹木による日陰や樹葉からの水分の蒸発により、真夏の暑さがピークに達した頃には、樹木の周辺部では1~5℃の冷却効果がある。カリフォルニアでの調査ではアスファルトの舗装部分に対する冷却効果は特に高く、最大で20℃の差異があったという。樹木によるこのような効用は日本でも検証されており、東京都市大学環境学部の研究者らが同大学横浜キャンパスで実施した調査でも類似の結果が得られている。
災害時の樹木の役割についても、改めて見直す必要がある。フィラデルフィアでは、暴風雨の際に下水処理場から水が溢れ出すため、米環境保護庁(EPA)から対策の指示を受け、市政府は当初、一時的な貯水場所として地下トンネルの建設を検討。見積りによると、建設費を差し引いた後の純利益は40年間で1億2,200万ドル(約135億円)だった。一方、グリーン・インフラを推進する場合は、資産価値の上昇、リクレーションの機会増加、高温に関連する死の回避等による純利益は28億ドル(約3,105億円)と見積られ、同市は後者を選択したという。
樹木は、住民の安全、健康、ウェルビーイングに多大な影響を及ぼす。今回の調査を行ったノワック氏らは、樹木の育成には長い時間を要し手間もかかるが、住民の総合的な幸福度を高める重要な要素であり、長期的な視野をもって取り組むべきだと主張している。
【参照ページ】Declining urban and community tree cover in the United States
【参照ページ】U.S. Cities Lose Tree Cover Just When They Need It Most
【参照ページ】夏季における樹木群の冷却効果
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