製薬世界大手スイスのノバルティスファーマは2月14日、感染性下痢症の一種であるクリプトスポリジウム症の治療候補薬KDU731の開発に向け、ビル・メリンダゲイツ財団から助成金650万米ドル(約6.9億円)を獲得したと発表した。
下痢症は世界的に小児死亡の主因の1つとなっており、毎年約525,000人が死亡している。下痢症には感染性と非感染性のものがあるが、特に安全な水の確保が困難な地域や下水道および下水処理システムが未整備の地域においては、バクテリア、ウイルス、寄生生物等による感染性の下痢症に注意が必要だ。
クリプトスポリジウム症は、2歳未満の乳幼児の感染性下痢症の内、2番目に罹患率が高い。クリプトスポリジウムは、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、ネズミ等の腸管寄生原虫として確認されていたが、1976年にヒトへの感染が初めて報告され、1980代には、後天性免疫不全症候群(AIDS)の患者間で致死性下痢症の病原体として注目された。
1980年代半ば以降は、英国、米国そして日本においても水系汚染に伴うクリプトスポリジウム症の集団感染が発生し、特に1996年に埼玉県入間郡越生町で町営水道水の汚染により8,800人の町民が感染した事例は、クリプトスポリジウムの感染力の強さを印象づけた。国立感染研究所によると、通常の浄水処理(凝集、沈殿、濾過)で完全に除去することは困難であり、塩素消毒にも抵抗性があるという。
免疫機能が正常な大人が罹患した場合には、下痢(主に水様下痢)、腹痛、倦怠感、食欲低下、悪心等の症状があり、多くの症例では数日から2~3週間持続し、自然治癒に至るとされている。しかし現時点ではワクチンや根治する薬剤が存在しないことから、先述のように、乳幼児やAIDSの患者間では致死の確立が高い。
ノバルティス熱帯病研究所(Novartis Institute for Tropical Diseases: NITD)が開発を進めているKDU731は、培養細胞や動物を使用する非臨床試験において、クリプトスポリジウム脂質キナーゼPI(4)Kに対する阻害剤として効果的に作用することが確認された。現在はヒトを対象とした臨床試験の開始に向け安全性の確認を行っているという。NITDは、マラリア、クリプトスポリジウム症と共に、3つの主要なキネトプラスト類による感染症であるアフリカ睡眠病、シャーガス病、リーシュマニア症を治療するための新薬の発見および開発に照準を合わせる同社の研究所。
【参照ページ】Novartis forms alliance to develop medicines for treating infectious diarrheal disease
【参照ページ】Diarrhoeal disease
【参照ページ】国立感染研究所:クリプトスポリジウム症とは
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