国際協力機構(JICA)インタビュー第3弾は、JICAの「地球ひろば」。JICA地球ひろばは、「市民参加による国際協力の拠点」を掲げ、体験型展示を通じて発展途上国の現状や国際協力の実情を伝える場として、2006年4月に設立されました。現在、東京都新宿市ヶ谷にある「JICA地球ひろば」、そして名古屋市ささしまライブ24地区の「なごや地球ひろば」、北海道札幌市の「ほっかいどう地球ひろば」の全国3ヶ所に設置されています。
JICA地球ひろばの主要来館者は、中学校や高校の修学旅行生ですが、企業の海外進出や持続可能な開発目標(SDGs)への関心の高まりを受け、最近では企業研修や社会人の自主的な学習の場として活用されるようなっています。また、「学ぶ側」だけでなく、「伝える側」としての企業との接点も増えています。地球ひろばの展示では、発展途上国で事業展開している企業の活動を紹介することが増加。企業が広報の場としても活用するようになりました。このように、JICA地球ひろばと企業の関係は年々深まってきています。
一方、JICA地球ひろばの認知度はさほど高くないのも事実。今回は、JICA地球ひろばを担当している広報室地球ひろば推進課に、JICA地球ひろばの紹介と企業との関わりについて紹介して頂きました。
小林英里子 広報室地球ひろば推進課 主任調査役
JICA地球ひろばとはどのような施設ですか?
小林英里子氏:
市ヶ谷のJICA地球ひろばだけで、毎年3万人以上の方が展示見学に来て下さっています。来館者の多くは中学校、高校の修学旅行生ですが、最近は企業の方も増えてきました。今年の3月から9月までSDGsをテーマとした企画展を実施したのですが、そのときには企業の方の利用が非常に増えました。国連グローバル・コンパクト(UNGC)のグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の会員企業30名程の方をご案内したこともあります。私たちも、企業のSDGsへの関心が高まっているなと感じます。
JICA地球ひろばは、人間の安全保障をテーマとした「基本展示」と、特別テーマを設定した「企画展示」を4ヶ月毎に交互に行っています。現在は企画展示を開催中で、今回のテーマは「『衣』を通じて見る世界」。日本のアパレルメーカーさんにも多数ご協力を頂き、アパレルの原材料となる綿花のことや、農薬等による健康被害、現地農家の所得の状況、衣料の廃棄が多い日本の現状などを幅広く紹介しています。
JICA地球ひろばは「体験型」にこだわっているようですね?
小林氏:
そうなんです。展示では、パネルを通じた文字情報だけでなく、五感を通じて感じてもらうことで、開発途上国の状況を理解してもらう工夫をこらしています。例えば、開発途上国では、子供たちが生活用水を何kmも離れた井戸まで汲みに行き、水の入ったバケツを毎日のように運んでいますが、展示では実際に相当重量のバケツを用意し、重さを体感してもらっています。
また、JICA地球ひろばでは常時、展示ガイド「地球案内人」が待機しており、来館者の方に体験談を通じて、現地の状況をリアルに理解してもらおうともしています。展示ガイドは、JICAの青年海外協力隊に参加し、開発途上国で数年間現地活動をしていたOBやOGです。私たちとしては、「途上国の人たちは可哀想」というものではなく、「途上国の人たちは、私たちとさほど変わらない同じ人間だ」「日本にはないこんな魅力がある」というような、ポジティブな面を積極的に知って頂き、身近に感じてもらいたいと思っています。青年海外協力隊のOBやOGから、具体的な話を聞くことで、現地の生活や人々の気持ちや、関わる人々の想いなどをぜひ知って頂きたいです。ガイドは20代が多く、親しみやすい解説は、修学旅行生だけでなく、企業の方にも好評を頂いております。
JICA地球ひろばに企業が来館するときには事前連絡したほうがよいですか?
小林氏:
一人で来られる方も多くいますし、自由に誰でも来られる場所ですので通常事前予約はいりません。ですが、修学旅行生などの団体の方が来られる場合には、事前予約頂くことが多いです。そのほうが、こちらもしっかりした体制で見学して頂けますので。企業の方も10名以上で来られる場合には、丁寧なご案内をさせて頂くため、事前に予約頂けると大変助かります。
展示に協力頂く企業はどのように選んでいますか?
小林氏:
協力頂く企業は、テーマに合わせて取り上げたい企業に対し、こちらからお願いをしています。そのため、私たちも常日頃から、企業の取組に関する情報収集を進めています。当然、新聞やテレビ、オンラインニュースサイトには目を通していますし、12月に開催されていた「エコプロ2017」にも行き、最新の動向をキャッチアップしてきました。
協力企業の打診では、大手企業だけでなく、よい取組をされている中小企業にもお声がけをしています。日本と開発途上国の関わりは、援助機関やNGOだけでなく、企業が現地事業やサプライチェーンを通じて大きな役割を果たしていると認識していますので、企業との連携は大切にしていきたいです。
また、名古屋と札幌の地球ひろばでは、地域経済との関係性も重視していますので、積極的に地域の企業に展示協力をお願いしています。
他にも企業と地球ひろばとの関わりはありますか?
小林氏:
通常の展示とは別に、「月間特別展示」というものがあります。こちらは、JICA地球ひろばのロビーの目立つ場所を使って、1ヶ月間、企業1社のSDGsへの取組を紹介するというもので、2016年1月から開始しました。現在は、企画展示「『衣』を通じて見る世界」にもご協力いただいている株式会社良品計画の展示を行っています。
月間特別展示は、奇数月に開発途上国の国別展示を、偶数月に企業の展示を行っています。これまでに、パナソニック、大日本印刷、リコー、ヤマハ発動機、森永製菓等の大手企業や、音力発電、トロムソなどのベンチャー企業に参加して頂いています。
月間特別展示の参加は無料ですが展示にご協力いただく企業には、出展料のご負担は無く、商品や写真、パネルなどを貸して頂くとともに、展示期間の月に1回、社会人向けセミナーの講師としてお話して頂いています。
月間特別展示はどのような方が見ていますか?
小林氏:
JICA地球ひろばがあるJICA市ヶ谷ビルには、大きな会議室やJICAの研究機関である「JICA研究所」も入っています。そのためJICA関連の研修やセミナーをこちらの施設で実施することは多く、国際協力関連の企業や、開発コンサルタント会社の方がよくいらっしゃいます。また、JICA研究所の研究員やJICAの職員も出入りしていますし、会議室をNGOや学生団体が利用できる制度もあるため、そうした団体の方々もいらっしゃいます。SDGsをテーマとしたシリーズセミナー「SDGsサロン」も開催しており、企業も来ていただきますし、二階の食堂を利用する近隣の企業の方も多く来られているようです。
インタビューを終えて
日本という社会は、企業のサプライチェーンを通じて発展途上国と大きな関わりをもっています。しかし日頃それを意識する機会はあまり多くはありません。JICAが国際協力という観点から企業の取組を展示していることを知り、正直驚きました。また、この施設に毎年多くの学生が訪れ、大人も知らないような話を見聞きしているのだと思うと希望が湧いてきます。今回のインタビューでも、地球ひろばを訪れた子供たちは、企業を見る目が変化しているという話も伺えました。
他方、現状のJICAの展示には、取組の経済性や事業性に関する説明はあまりないとも感じました。それはJICAが国際協力という文脈から展示を行っているからなのかもしれません。しかしながら企業には、取組を継続的に実施していくためにも、経済性が求められています。国際協力と同時に事業として成立しているという説明が、このような展示の中でもされるような世の中にしていきたいと思います。
聞き手:夫馬 賢治
株式会社ニューラル 代表取締役社長
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