国際エネルギー機関(IEA)は11月14日、「世界エネルギー展望(World Energy Outlook)2017」を発行した。過去1年間の大きなトレンドとして、再生可能エネルギーの急速な伸長と発電コストの低下、米国でのシェールガス・シェールオイルの急増、中国でのエネルギー政策の大転換を挙げ、内容を解説している。
(出所)IEA
今年の報告書では、2040年には今よりもエネルギー需要が30%伸びると予測。伸び率は今よりも下がるが、今より遥かにエネルギーが必要となる。世界経済は毎年3.4%成長し、人口も2040年には今よりも16億人多い90億人となる見込みで、4ヶ月毎に上海人口に相当する都市人口が増加していくことなる。とりわけ増加量が多いのがインド。1国だけで世界の増加量の30%を占める。中国も引き続き増加量が790Mtoe多く、他にも東南アジア、中東、アフリカでは400Mtoeを上回る増加を経験していく。
(出所)IEA
今後大きく成長するのは再生可能エネルギーで、2040年には世界の1次エネルギー需要増加量うち40%を再生可能エネルギーが占めることになる。とくに中国とインドの太陽光発電が牽引する。EUでも新規発電設備容量の80%は風力を中心とした再生可能エネルギーが占める。IEAはこれにより石炭の時代は終わるだろうと見通している。2000年以降、石炭火力発電は約900GWの設備容量を誇っているが、2040年までの新規増加は400GWに留まり、そのうちの大半はすでに建設が着工している。インドではすでに発電に占める石炭火力発電の割合は2016年に4分の3に下がっており、2040年には半分まで下がる見通しだという。炭素回収・貯蔵(CCS)技術が普及しなければ、石炭消費量は横ばいになるだろうとした。
一方、石油需要は2040年まで緩やかに増加を継続。天然ガスは2040年までに45%も増加するが、電源としてよりも産業利用の分野で伸びる。原子力発電の将来は昨年よりも暗雲が立ち込めているが、中国が世界をリードし2030年までに米国を上回り世界最大の原子力発電国となる見通し。
(出所)IEA
米国では、シェールガスとシェールオイルにより、石油・ガス生産量が増加に転じる。2025年までは年々増加し、それ以降も2040年まではほぼ横ばい。一方、米国のエネルギー消費量は2040年までに30Mtoe減少するため、大幅な生産増は輸出に回る。2020年台中頃には米国は世界最大の天然ガス輸出国になる見込み。
(出所)IEA
石油需要は2040年まで減少するもののさほどは減らない。背景には、電気自動車(EV)等の普及により自家用車のガソリン・ディーゼル需要は減少しつつも、航空機、輸送トラック、石油化学分野での需要は大きく伸びていくため。そのあめ石油エネルギー消費を抑えるためには、航空機、輸送トラックでの代替燃料や石油化学製品のリサイクルや使用量削減がカギを握る。
(出所)IEA
世界最大のエネルギー消費大国となっている中国の動向が世界の帰趨を左右すると言っても過言ではない。すでに中国は石炭依存度を削減する政策の大転換を行っており、今後も石炭火力発電所の増設は続くものの既存の発電所の建替えも多く、石炭消費量はすでに減少し始めている。また、太陽光、風力、水力の合計新規設備容量は石炭火力を上回り、再生可能エネルギーが急増していく。
(出所)IEA
大気汚染物質排出量では、現在深刻化している中国は今後大幅に減少していき、エネルギー消費量は伸びつつも、2040年までには半減する見込み。同様に石炭依存度が比較的高いドイツやポーランド等でも大気は清浄化していき、EUでも大きな削減が見込まれている。一方、今後大気汚染が深刻になっていくのはインドと東南アジア。
気候変動を1.5℃から2℃に抑えるためには、2040年には電源に占める再生可能エネルギー割合を60%、原子力を15%、炭素回収・貯蔵(CCS)技術で6%を回収しなければならない。そのため石炭火力発電を一刻も早く止めなければならない。また、自動車だけでなくトラックのEV化も進めなければならない。
日本では、再生可能エネルギーか、原子力発電か、CCS付石炭火力発電か等の議論が盛んだが、IEAの予測を見ると、CCSや原子力発電をやれば再生可能エネルギーはそこそこで良いというような結論にはなりえない。そもそも再生可能エネルギーを軽視した未来は到底描けない。
【参照ページ】World Energy Outlook 2017
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