日本生命保険は10月19日、オーストラリア・ビクトリア州メルボルンの海水淡水化プラント運営プロジェクトへ1億7,600万豪ドル(約156億円)の融資を行ったと発表した。借入先はプロジェクトを管理する豪アクアシュア・ファイナンス。オーストラリアのプロジェクトへの融資は同社初。同社は、ESG関連債権への投融資を今後4年間で2,000億円実施することを目標としており、今回の融資はその一環。
同プロジェクトは、歴史的に大規模な干魃が頻発しているオーストラリアにおける渇水対策を目的とした官民連携プロジェクト(PPP)。人口約460万人を抱えるメルボルン市の年間水使用量の約3分の1を供給することができる。造水能力は日量約40万tで規模は世界最大級。同プラントは2012年3月に完成。2039年9月まで運転する予定。今回の融資はリファイナンスで、日本生命保険は、プロジェクトのリファイナンス総額7億6,600万豪ドルの23%を占める。同プロジェクトの稼働電力は、ビクトリア州内の風力発電から調達する予定。
このプロジェクトは、2009年にアクアシュアコンソーシアムが落札。同コンソーシアムは、水・環境事業世界大手仏スエズエンヴァイロンメント、豪ゼネコン最大手ティース、豪投資銀行最大手マッコーリーの3社で構成し、日本の伊藤忠も約1億豪ドル出資している。オーストラリアにおける大型の海水淡水化プラントの導入は同プラントが6件目(パース2基、ゴールドコースト、アデレード、シドニー)だが、PPP形態による導入は同プラントが初。プロジェクト開始時には、三井住友銀行、みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行のメガバンク3行を含む十数行が国際シンジケートを組み、プロジェクトファイナンスを実施した。
しかし、同案件は、建設完成からが正念場だった。当初はメルボルン市の水不足を解消するために計画された巨大淡水化プラントだったが、完成した2012年には同市の干魃用大規模貯水池水位が80%以上にまで回復。結果、メルボルン市は淡水化プラントから水を購入する必要がなくなり、淡水化プラントが稼働することなく休止状態に追い込まれた。それでも市政府はプラント建設費用、銀行への金利、休止待機費用として毎日180万豪ドルを支払うこととなり、淡水化プラントは市民の生活を救うはずが、市民から批判を浴びる存在になってしまった。
その後、再び水不足が始まり、同市政府は2016年後半に同プラントの稼働と水購入を決断。しかし再び事件が襲う。設備の故障が発覚し修理中に電力系統を破損。稼働ができなくなった。格付会社S&Pグローバル・レーティングは、2017年6月30日までに稼働と給水開始できない場合は格付を引き下げると言及。資本コスト増のリスクが浮上した。プラント運営側は、電力問題解決のため、大気汚染懸念や市民からの反対を押し切って、施設内でディーゼル火力発電機30台を投入することで対応。ついに3月20日に運転を開始し、約130日稼働分に相当する5,000万tを供給した。同市政府は今後3年間、毎年1,500万t購入する意向も表明した。プラント稼働によるコスト増により、市民の水使用料金が上がることも懸念されたが、市政府は同プラント運営者のコスト削減努力により、市民への影響は及ぼさないと発表した。それでも現在も貯水地水位は60%前後あり、継続稼働の必要性がないという声もある。
だが今後の気候変動により、オーストラリアの水資源は未来永劫安泰とは言えない。日本生命を含めたリファイナンスにより、巨大な淡水化施設をどう運営していくかに、大きな関心が集まる。
【参照ページ】オーストラリアでの海水淡水化プラント運営プロジェクトへの融資について
【参照ページ】Victorians pay dearly, but not a drop to drink
【参照ページ】Desalination plant faces 'substantial consequences' over looming water deadline
【参照ページ】Community anger over 30 diesel generators installed at Victorian desalination plant in Wonthaggi
【参照ページ】Victoria's desalination plant finally delivers as Government places order for more water
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