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【金融】鉄道・運輸機構のグリーンボンド、環境省の発行モデル事例第1号に採択

【金融】鉄道・運輸機構のグリーンボンド、環境省の発行モデル事例第1号に採択 1

 気候変動対策や自然資本の保全に資する環境プロジェクトに民間資金を導入するためのツールとして、グリーンボンドの発行が国際的に活発化しつつあります。しかし、日本ではグリーンボンドの普及はまだ十分とは言えません。そこで環境省は2017年3月28日、「グリーンボンドガイドライン2017年版」を発表しました。そして、このガイドラインをもとに国内のグリーンボンド発行をさらに推進し、グリーンボンド市場を活性化させるため、環境省は今年7月から8月にかけ、「平成29年度グリーンボンド発行モデル創出事業に係るモデル発行事例」の募集を実施。10月10日に、第1号案件として、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が今年11月に発行を予定している10年債のグリーンボンドを選定したことを公表しました。このグリーンボンド発行の事務主幹事はみずほ証券。共同主幹事は三菱UFJモルガン・スタンレー証券、野村證券、大和証券。そしてグリーンボンド発行に当たっての「グリーンボンド・ストラクチャリング・エージェント」も事務主幹事のみずほ証券が務めました。

 そもそもグリーンボンドとは、調達した資金の使途(使い道)を環境目的に限定する債券のことを指します。しかし、グリーンボンドが環境目的に使われていることを保証するためには、調達資金が充当されるグリーンプロジェクトを明確にし、「調達した資金」が確実にその目的のみに使われるよう管理する必要があります。そこで、金融機関の国際的な業界団体である国際資本市場協会(ICMA)は2014年、「グリーンボンド原則(GBP)」を制定。債券を「グリーンボンド」と謳うための要件を固めました。これがグリーンボンドの世界的なデファクト・スタンダードとなっています。

 今年3月に環境省が定めた「グリーンボンドガイドライン2017年版」も、この「GBP」との整合性に配慮しており、さらに市場関係者向けに具体的な対応例や日本の特性に応じた解釈を示したものになっています。今回の鉄道・運輸機構の10年債グリーンボンドも、目下、環境省が「グリーンボンドガイドライン2017年版」に適合するか否かの確認を行っており、適合性が確認されれば正式にモデル事例として認められます(*注1)。

 鉄道・運輸機構は、日本政府が全額資本出資し、新幹線など鉄道網の整備、線路など鉄道施設の貸付・譲渡、船舶の共有建造を主事業としています。今回発行予定のグリーンボンドの資金使途は、「神奈川東部方面線」と呼ばれる鉄道路線の建設。この「神奈川東部方面線」は、相鉄本線とJR東海道貨物線を結ぶ「相鉄・JR直通線」(約2.7km)と、同じく相鉄本線と東急東横線を結ぶ「相鉄・東急直通線」(約10.0km)の2路線で構成されており、地域間の速達性向上、経路選択肢の増加、乗換回数の減少、新幹線アクセスの向上など交通利便性の向上が期待されています。

 「神奈川東部方面線」により鉄道アクセスが改善し、市民の足が二酸化炭素排出量の多いバスや自動車から鉄道に替わることによる環境インパクトは、国土交通省が定めた算出方法によると、二酸化炭素排出量が年間約1,800t(杉の木約2.3km2の吸収量に相当≒東京ドーム49個分)削減、窒素酸化物(NOx)排出削も年間18t削減。大きな改善効果が見込めることになります。この「神奈川東部方面線」の建設は、鉄道・運輸機構の「都市鉄道利便増進事業」として進められ、鉄道・運輸機構が整備主体となって路線を保有。有償で路線を営業する相模鉄道や東急電鉄に路線が貸付されます。この建設費用の一部の資金調達のため、今年11月に10年債約200億円を発行する予定です。また同様の資金使途で来年2月にも20年債約245億円が発行される予定になっています。

 グリーンボンドの使途として鉄道インフラを活用する事例は、海外を中心に増加してきており、国内の発行事例としては初。GBPや環境省の「グリーンボンドガイドライン2017年版」においても、鉄道インフラはグリーンボンドの使途として認められていますが、過去の国内事例では、再生可能エネルギーやグリーンビルディング等での活用が目立ちます。今回鉄道インフラでのグリーンボンド活用に至った背景について、グリーンボンド・ストラクチャリング・エージェントのみずほ証券にヒアリングしたところ、「鉄道インフラのグリーンボンドは海外でも事例がある。グリーンボンドの可能性の広さを示したかった」という回答が得られました。海外でも二酸化炭素排出量削減のため、ライトレールトランジット(LRT)を整備する都市が増えてきています。鉄道・運輸機構も、2017年の環境報告書の中で「環境にやさしい交通体系の整備」を標榜しており、日本でも鉄道インフラの環境改善効果に再び注目が当たっていきそうです。

 グリーンボンドの発行では、総合的な環境負荷削減のため、使途となるプロジェクトの環境面でのネガティブ効果もチェックされます。今回、ガイドライン適合性確認業務は、環境インパクト評価で実績のあるイー・アンド・イーソリューションズが、日本格付研究所(JCR)とサステナリティクス(Sustainalytics)の協力を得て実施します。鉄道・運輸機構のグリーンボンド発行準備プロセスでは、そもそも鉄道路線整備のために国や自治体の法規制のもとで実施されている環境アセスメントのデータや情報が大いに役立ったと言います。みずほ証券は、「今回の発行準備を通じて、日本のインフラ整備における環境アセスメント等の仕組みと、グリーンボンド発行の親和性が高いとわかった」と、今後に向けた大きな期待が伺えました。

 グリーンボンドの購入者となる機関投資家側でも、ESG投資の興隆に伴い、需要が旺盛になってきています。今回のグリーンボンドに関しても、みずほ証券は「投資家サイドとのコミュニケーションは今後本格化しますが、すでに複数の機関投資家から高い関心を寄せて頂いています」と回答。非常に強い感触を感じているようです。また、鉄道・運輸機構、過去107回債まで起債をしており、債券発行市場で非常に有名な存在。そのため同機構がグリーンボンド発行を実施することそのものも、大きな意味を持ちます。みずほ証券も「今年は日本のグリーンボンドの黎明期となるだろう」と期待を高めています。

 鉄道インフラでのグリーンボンド活用は、新たな大きな可能性を示してくれるものとなります。国土交通省のデータでも、1人km当たりの二酸化炭素排出量(一人を1km輸送するのに必要な二酸化炭素排出量)は、自家用車の145g、バスの66gに対し、鉄道は20g。環境負荷が小さいことがわかります。もちろん、鉄道網の整備に当っては、整地による環境負荷等も考慮しなければなりません。そのためにも、グリーンボンドの発行プロセスを通じて、幅広い環境インパクトがチェックされることは、地域社会や地球環境にとってプラスの効果を生みます。日本のグリーンボンド市場拡大を強く期待します。

*注1:2017年11月8日、環境省は正式に適合性を確認しました。

※写真提供:独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構
※取材協力:みずほ証券

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夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役社長

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