英人権・環境NGOのCORE Coalitionは10月4日、英国現代奴隷法が義務化している大企業の報告書について、今年度の提出結果を分析したレポート「Risk Averse?」を発表した。現代奴隷法は、年間売上3,600万ポンド(約54億円)以上の企業に、「奴隷と人身取引声明」の報告を義務付け、今年の提出期限は9月30日だった。
同レポートは、食品・資源大手25社とアパレル・建設・サービス大手25社の計50社を対象に分析。食品・資源業界は、西アフリカのココアや金、インドの雲母、インドネシアのパーム油、インド・アッサムの茶葉等で労働者への人権が多いと指摘されている。同じくアパレル・サービス業界は、服飾、ホテル、建設、アウトソーシング・ビジネスでも強制労働やヒューマントラフィッキングが多いと言われている。サービス関連では、昨今、英サッカーのプレミアム・リーグでも現代奴隷への関与が指摘されており、アーセナルFC、リバプールFC、マンチェスター・ユナイテッドFC、マンチェスター・シティFC、チェスターFCの5社も分析対象となった。
英内務省は、企業に対し、「奴隷と人身取引声明」の中に、自社オペレーションやサプライチェーン上の現代奴隷や人身取引のリスクを記述することを推奨しているが、アウトソーシング業界ではリスク表記が進んでいるが、それ以外ではほとんど記述がなかった。また、対象企業50社のうち、Airbnb、フォートナム&メイソン、ディオール、モンデリーズ・インターナショナル、フット・ロッカーの5社は独立した「奴隷と人身取引声明」を発表せず、他のレポートの一部としての発表に留まっていた。
同レポートでは、50社の個別分析と業界全体の分析も行い、細かく内容が記載されている。CORE Coaltionは、今年度の特徴として以下のようにまとめた。
良かった内容
- 食品大手のマースは、チョコレートのサプライチェーン上で強制労働を含む人権侵害がある可能性について言及した
- 小売大手リドルは、自社ブランドの洋服と靴を製造する1次サプライヤー工場のリストを公開した
- 食品大手ネスレは、11の人権に関わるリスクを公開。そのうち7つが労働者の権利に関わるものだった
- 消費財大手ユニリーバは、2015年人権報告書の中で、茶葉生産国の多くで低賃金の問題があると言及した
- 建設大手Barratt、Bovis、Unite Students3社は、建設業界や自社における現代奴隷のリスクに言及した
課題
- 化粧品大手のロレアル、レブロン、ブーツ、エスティーローダーの各社は、雲母に関する児童労働のリスクについて言及しなかった。雲母は化粧品の光沢感を出すのに使われる原料で、世界の供給量の4分の1がインド北東部で採取されている。北東インドでは2万人の児童労働者がいると言われている
- チョコレート大手ハーシー、フェレロ、リンツは、児童労働や強制労働のリスクの高い西アフリカからカカオ豆の供給を受けていることを認めているにも関わらず、サプライチェーンに関わるリスクについて言及しなかった
- 貴金属大手カルティエ、ティファニー、ゴールドスミス、Signetは、金鉱における現代奴隷や人身取引のリスク詳細について言及しなかった。国際労働機関(ILO)によると、100万人近くの児童が世界中の金鉱で働かされているという
- インド北東部アッサム地方の農園で人身売買の慣行が指摘されている紅茶産業のうち、そのリスクに言及したのはベティーズ・アンド・テイラーズのみだった。
【参照ページ】Modern slavery: top companies fail to name supply chain risks
【レポート】Risk Averse: Company Reporting on raw material and sector-specific risks under theTransparency in Supply Chains clause in the UK Modern Slavery Act 2015
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