JI(共同実施)とは、先進国同士が共同で地球温暖化対策の事業を行い、その結果の削減分を当該事業の投資国と事業受け入れ国で分けることができる制度です。京都議定書における京都メカニズムの一つで、京都議定書第6条に規定されています。
背景
1997年の気候変動枠組条約京都会議(COP3)で採択された京都議定書は、附属書I締約国である先進国41カ国・地域に対し、2008年から2012年の間の第一約束期間(CP1)5年間の間に、二酸化炭素排出量の削減目標を定めています。1990年比でEUは8%、米国は7%、日本は6%です。
この目標達成を支援するために、京都議定書では、京都メカニズム(柔軟性措置)が盛り込まれました。その一つがJI(共同実施)です。技術やノウハウ、資金力のある先進国が国内での排出量削減事業を行うだけでなく、それぞれの国が得意分野を相互補完的に協力し合い、先進国でさらなる削減を可能にするよう設計されました。
京都メカニズム(柔軟性措置)にはJIの他に、CDM(Clean Development Mechanism:クリーン開発メカニズム)とET(Emissions Trading:排出量取引)があります。JIが投資国も実施国も双方が先進国なのに対し、CDMは先進国が投資国となり発展途上国で事業を実施するものです。
JIの流れ
まずプロジェクト実施事業者が、JI事業の計画書を作成。それを投資国と事業実施国(ホスト国)の双方が承認します。その後のプロセスは、ホスト国がJIへの参加資格を満たしているか否かでプロセスが異なります。
(1)第1トラック
ホスト国がJIへの参加資格を満たしている場合、第1トラックと呼ばれるプロセスを経ます。事業実施者とホスト国がJI事業を実施、モニタリングを行い、双方の合意内容に基づいて排出削減単位(ERU:Emission Reduction Unites)を決定。ホスト国がERUを発行し投資国に分配します。
(2)第2トラック
ホスト国がJIへの参加資格を満たしていない場合、第2トラックと呼ばれるプロセスを経ます。こちらでは、まず第三者機関である認定独立組織がJI事業の適格性を判断してからJI事業が実施されます。排出削減単位(ERU)についても認定独立機関が決定。そして、ホスト国がERUを発行し投資国への分配が行われます。
JI参加資格
JI参加資格は、次の通りです。以下の(a)から(f)全てを満たしている場合、第1トラックが適用されます。また、(a)、(b)、(d)を満たしていれば第2トラックが適用され、JI事業を実施することができます。
(a)京都議定書の締約国であること
(b)割当量を算定し、記録していること
(c)温室効果ガスの人為的な排出量及び吸収源による除去量を推計するための国内制度を整備していること
(d)国としての排出枠・クレジット保有量の管理を行うための国別登録簿(National registry)を整備していること
(e)直近の排出・吸収に関する目録(Inventory)を毎年提出していること。そのうち、第1約束期間については、排出目録について内容審査に合格していること
(f)割当量に関する補足的情報を提出し、強度議定書第3条3項・4項の活動(土地利用・土地利用変化及び林業)に対して、割当量への追加差し引きを行なっていること
JIの事例
仏マルヌ・ラ・ヴァレのアルファルファ農家の事例
本事例は、フランスがホスト国、ドイツが投資国として2008年から2012年にかけて384,901tものCO2削減に成功した事例です。従来、アルファルファの乾燥に石炭を使用していたところ、約15工場で石炭に加えて木片を混ぜました。本事業では、二酸化炭素排出量削減に貢献しただけでなく、土壌や水の汚染を減らすことができ、生物多様性にも貢献しました。
ブルガリアの小規模水力発電所の事例
本事例では、ブルガリアがホスト国、オランダが投資国として2008年から2012年にかけて183,096tもの二酸化炭素排出量削減に成功。技術が十分に普及していないブルガリア南西部に位置する地域での本プロジェクトは、小規模の水力発電所が重要でした。本事業は、温室効果ガスを排出しない発電所建設での地球温暖化対策への貢献だけでなく、地域の雇用創出にもつながりました。
なお、2012年に開催されたCOP18(ドーハ会議)で京都議定書の第一約束期間が終了しました。CDMに関しては、第二約束期間に参加しない国も2013年以降のCER取得が可能となりましたが、JI(共同実施)とET(排出量取引)に関しては第二約束期間に参加する国のみに限られています。
参考ウェブサイト
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