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【アジア太平洋】アジア開銀、気候変動の社会影響予測報告書発表。10億人が移住を強制される可能性

 アジア開発銀行(ADB)は7月14日、気候変動がアジア太平洋地域の社会に及ぼす影響を分析した報告書「A Region at Risk: The Human Dimensions of Climate Change in Asia and the Pacific」を発表した。独ポツダム気候影響研究所(PIK)との共同作成。今後の気候変動は、アジア太平洋地域の社会を破壊すると警鐘を鳴らした。発表イベントでは、PIKのHans Joachim Schellnhuber教授は2100年までに10億人が移住を迫られる可能性があると語った。

 アジア開発銀行のバンバン・スサントノ知識管理・持続的開発担当担当副総裁は、「気候変動は人類にとって21世紀最大の試練になりうる」と強調。同報告書は、今のペースで地球温暖化が進むと、今世紀末までにアジア太平洋地域では気温が6度上昇すると予測。中でも、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、中国北西部では8度も上昇するという。これらの気温上昇は地域の気象を大きく変え、農業、漁業、陸上・海上の生物多様性、国内・国際安全保障、貿易、都市開発、移民、健康に多大なる影響を与えるという。このシナリオのまま進めば、アジア太平洋地域での持続可能でインクルーシブな発展の望みは潰えてしまうかもしれないとした。

 温暖化が進むとアジア太平洋地域では台風やサイクロンの威力が増すと予測されている。また現状のまま進めば、年間降水量はアジア太平洋地域の多くで50%以上増加する一方、パキスタンやアフガニスタンでは20%から50%減少してしまう。沿岸部は高い確率で洪水リスクに晒されることになる。海面が1m上昇すると危機に瀕する世界25都市のうち19都市はアジア太平洋地域に位置している。国別ではフィリピンだけで7都市。最も洪水の被害が甚大になるのはインドネシアで590万人が洪水被害を受けると推計されている。

 また洪水は経済損失ももたらし、損失額は2005年の60億米ドルから2050年までには520億米ドルにまで8倍以上も拡大。被害が大きくなる世界都市トップ20のうち、13はアジア太平洋地域で、日本の名古屋、中国の広州、深圳、天津、張江、廈門、インドのムンバイ、チェンナイ、スラート、コルカタ、ベトナムのホーチミン、インドネシアのジャカルタ、タイのバンコクが該当する。

 気候変動は食糧価格の高騰にもつながる。このままいけば、2100年までに東南アジア諸国では米の生産高が50%以上も減少。気温が2度上昇に留まったとしても、ウズベキスタンではほぼ全ての穀物の生産高が2050年までに20%から50%も減少する。これにより南アジアでは700万人の児童が栄養不足に。食糧価格の高騰により、輸入コストは2050年までに現状の毎年20億米ドルから150億米ドルに7倍以上に増加すると発表した。

 その他、気温が4度上昇すると、2100年までに太平洋西部のサンゴ礁は全て白化。1.5度上昇だとしても89%が白化する。これにより東南アジアの漁業や観光業は大きな被害を受ける。また、中国、インド、パキスタン、バングラデシュを筆頭に毎年330万人が大気汚染で死亡。2050年までに暑さで死亡する年間高齢者数も5万2,000人増加する。マラリアやデング熱などが猛威振るう可能性もある。同時に、水不足等により水力発電所の機能低下、冷却水が入手しにくくなることによる火力発電所の能力低下が予測され、化石燃料に依存することへの脆弱性が高まる。エネルギー危機になれば戦争にもなりうる。

 同報告書は、今後の対策として、パリ協定の遵守を強調。そのために、アジア太平洋地域の経済の急速な低炭素化と、脆弱な人々を保護するための気候変動適応に取り組むことが重要だとした。また都市インフラや交通分野での再生可能エネルギーや技術革新を進めるべきだとした。そして、アジア太平洋地域の努力が、世界を持続可能な発展へと向かわせるか否かの明暗を分けると結論づけた。

【参照ページ】Unabated Climate Change Would Reverse the Hard-Earned Development Gains in Asia — New Report
【報告書】A Region at Risk: The Human Dimensions of Climate Change in Asia and the Pacific

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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