サステナビリティ企業ネットワークの米BSRは5月10日、再生可能エネルギーへの投資拡大に向けたレポート「Scaling Finance for Clean
Energy」を発表した。同レポートの作成では、国際機関やNGO、企業連合体が発行してきた報告書の調査とともに、金融機関や事業会社へのインタビューと多様なステークホルダーを集めたグループインタビューも実施。BSRは企業が集まる団体のため、同レポートはビジネスや投資の視点からの現状分析を行っている。再生可能エネルギーの拡大に向けた今後の提言としては、金融機関の業界全体での協働アクションを挙げた。
国際エネルギー機関(IEA)の試算では、パリ協定で定めた2℃目標を達成するためにはパリ協定署名164ヶ国の合計で、2030年までにエネルギー業界だけで少なくとも13.5兆米ドル、経済界全体では90兆米ドルが必要。現状のIEAの予測では、政府が主導する気候変動関連プロジェクトにより、2030年までに風力1.3兆米ドル、太陽光1.1兆米ドル、水力0.9兆米ドルを含む3.9兆米ドルが投資される。また、エネルギー効率分野にも5.4兆米ドルが投じられる。
足元の状況では、2016年の世界全体の再生可能エネルギー投資額は約2,875億米ドル。過去最高だった昨年の3,485億米ドルに比べ減少しているが、同レポートは再生可能エネルギー発電コストが低下しているためだと説明している。個別の電源を見ると、太陽光発電や風力発電への投資額は昨年を上回っている。再生可能エネルギーへの旺盛な需要の背景には、企業が再生可能エネルギーでの事業運営を推進していることもあり、企業による再生可能エネルギー発電投資が増えているという。
パリ協定の遵守に向けたこれらの資金供給を確実にしていくためには、金融機関が担う役割が大きい。今回のレポートでは、金融機関の個別の取組は始まりつつも、より大きな動きにしていくためには業界の協働が不可欠だとした。とりわけ協働が必要な分野として、「リスク評価・管理」「金融機関の能力開発」「融資先のプロジェクトの気候変動寄与度を定量測定する手法」の3つを挙げた。
リスク評価・管理の分野では、投資家のショートターミズム(短期思考)と、気候変動に関する金融リスクを測定する共通尺度の不在が、大きな課題だとした。リスク評価の実施については、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)と国際環境NGO世界資源研究所(WRI)が共同開発した、気候変動に関する金融リスクを特定、評価、管理するフレームワークを紹介。このフレームワークを用いることで、気候変動リスクを、投融資資適格性判断、投融資デューデリジェンス、金利の中に組み込んでいけるとしている。また、事業会社と同様に、銀行も「内部炭素価格」の概念を導入することも推奨した。
金融機関の能力開発では、米業界団体の気候変動役員協会(ACCO)が提示しているスキル開発項目を紹介。ACCOは、気候変動に関する金融リスクを企業経営に織り込むためには、科学的リテラシーなど基礎的能力、意思決定など組織的能力、会社規模のリスク緩和など戦略遂行能力が必要だとまとめている。
気候変動寄与度の定量測定手法については、共通の手法が確立されていないことで、金融機関が融資機会を探索したり、融資先のプロジェクトの気候変動寄与度を対外的に公表することができないことを課題として認識。現状で金融機関が参照できる優れた枠組みとしては、気候債券イニシアチブ(CBI)と国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)が策定したものを紹介した。
同レポートは、これら三つを推進していくためには、個々の金融機関の取組ではなく、業界全体の協働が必要だと提言。協働では、すでに、AODP、カーボン・トラッカー・イニシアチブ、IIGCC、モントリオール・カーボン・プレッジ、2 Degrees Investing Initiative、INCR/Ceresなどがあるものの、今後さらに必要となる分野として、「銀行セクターの共通気候変動リスク管理ポリシーの制定」「気候変動分野での銀行セクターの対企業集団的エンゲージメント」「エネルギー転換に向けた金融機関の能力開発とインセンティブ」「地域社会ステークホルダーとの集団的エンゲージメント」の4つを挙げた。
【参照ページ】Scaling Finance for Clean Energy: Collaborative Solutions for a New Economy
【レポート】Scaling Finance for Clean Energy: Collaborative Solutions for a New Economy
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