米ニューヨーク大学スターン・スクール(ビジネススクール)の「ビジネスと人権センター」は3月9日、近年主流の投資手法になりつつあるESG(環境・社会・ガバナンス)投資について、「社会(S)」の要素の大幅な改善が必要だとの分析を示したレポート「Measuring Human Rights Performance for Investors」を発表した。レポートでは、主要なESGインデックスや、最新のCHRB(企業人権ベンチマーク)までを含めた社会分野の調査手法を分析し、いずれも不十分なものだとの認識を示した。
レポートをまとめたのは、同センターに所属するCasey O’Connor上席研究員とSarah Labowitz研究員。両氏は、ESGの中での「S」の分析を行っている既存の12のインデックスや調査を分析し、それぞれには大きな欠点があり、ESG投資の「S」の充実のためには大きな改善があるとまとめた。
今回分析対象となったのは、
(1)企業報告ガイドライン
- GRI
- SASB
- 国連の指導原則レポーティングフレームワーク(UNGPRF)
(2)ESG投資用データ
- ブルームバーグESGデータ
- DJSI(Dow Jones Sustainability Indices)
- FTSE ESG格付
(3)人権専門家によるフレームワーク
- Access to Medicine Index
- Enough ProjectのCompany Rankings on Conflict Minerals
- オックスファムのBehind the Brands campaign
- Ranking Digital Rights
- KnowTheChain
- CHRB(企業人権ベンチマーク)
レポートでは、ESGの中でも「E(環境)」については、環境インパクトに関する共通の測定手法が広く普及してきている中、「S(社会)」については有効な測定手法が確立されていないとの問題認識に立脚。とりわけ、社会の分野での既存の評価手法は、最終的な社会インパクトではなく、企業方針や体制面などの評価に留まっていることが大きな課題とした。そのため、既存のESG投資家にとって有効性の高い「S」評価にはなりきれていないと結論づけた。
例えば、GRIやSASBなど企業報告ガイドラインは、社会分野の最終的なインパクトを報告させる内容にはなっているものの、ガイドラインそのものが自主的な報告を促す性格のため、企業が一律に同じ基準で開示するものにはなっていない。また、DJSIやブルームバーグなどが提供しているデータは、人権侵害等の発生頻度が高いサプライチェーン上の社会評価を対象にしていないケースが多いことを問題とした。CHRBなど人権専門家による評価については、企業報告ガイドラインや金融情報会社のESGデータと比較しても最も企業方針や体制面での評価に偏っており、社会インパクト基点での評価がなされていないという。また人権専門家によるフレームワークは、対象企業数が著しく少ないことも課題視した。
その上で、レポートは、今後の改善の方向性として、
- 企業の努力姿勢ではなく、実社会のインパクトを測定すること
- 企業が報告する項目を超えた幅広い社会データを網羅すること
- 社会(S)に関する明確な基準を設けること
- 投資家をデータの最優先対象者とすること
【参照ページ】Report Reveals Gaps in Social Performance Metrics Needed By Investors to Identify Leading Companies
【レポート】Measuring Human Rights Performance for Investors
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