IT世界大手SAPは2月28日、2016年の統合報告書を発行した。統合報告書には、非財務指標が財務業績に与える定量的なインパクトを公表するとともに、マテリアリティ分析の詳細プロセスも明らかにされている。国際統合報告評議会(IIRC)が定める統合報告フレームワークでは、財務と非財務の関連性やマテリアリティ分析が非常に重視されているが、今回SAPが公表した統合報告書はその面での好事例と言える。
今回発表された統合報告書には、非財務指標として、従業員関連データと環境データの2つが発表されている。従業員関連データでは、独自に測定している従業員エンゲージメント指数、従業員定着率、ビジネス健康文化指数などを公表。これらの数値で大きく伸長したことを示した。また、環境データでは、温室効果ガスやエネルギー消費量、データセンターのエネルギー消費量、再生可能エネルギー割合などを発表している。SAPは、2014年に再生可能エネルギー100%での事業運営を実現しており、2016年も100%を維持した。
SAPは、従業員と環境データの中でも、従業員エンゲージメント指数、従業員定着率、ビジネス健康文化指数、二酸化炭素排出量の4つを重視しており、これら4つを主要業績評価指数(KPI)として定め、営業利益への財務的インパクトを測定している。現状では、従業員エンゲージメント指数が1%上がると、営業利益が4,400万から5,500万ユーロ上昇するという。また、ビジネスヘルスカルチャー指数が1%上がると営業利益は8,000万から9,000万ユーロ上昇、従業員定着率が1%上がると5,000万から6,000万ユーロ上昇、1%の二酸化炭素排出量削減は500万ユーロ上昇に繋がるという。
マテリアリティの特定では、GRI G4のガイダンスとSASB、さらにグローバルEサステナビリティ・イニシアチブ(GeSI)と国連の持続可能な開発目標(SDGs)を参照し、候補リストを作成。事業視点、サプライチェーン視点の双方から重要テーマを検討するとともに、同社商品であるソフトウェアが顧客に与えるSDGs目標への貢献についても検討を加えた。その後、財務、事業、戦略、評判、規制の5つの観点から各テーマがもたらすインパクトの度合いを検討し、3つ以上の観点で価値を発揮する7つのテーマを選定した。選定されたのは、事業遂行、気候とエネルギー、財務業績、人間とデジタルの権利、人的資源、イノベーション、社会へのインパクト。最終的にステークホルダーからの評価を得て、同社のマテリアリティ案が作成され、さらに同社の統合報告書運営委員会とサステナビリティ・アドバイザリー・パネルで審議された後、サステナビリティと統合報告を担当する取締役である最高財務責任者(CFO)が最終承認した。
統合報告書の中での指標開示では、このマテリアリティ決定のための議論結果が大きく反映されている。重要7テーマのうち財務業績については、報告が必須であるという共通認識があり、あまり議論されなかったが、関心の高かったイノベーション、業務遂行、人的資源については、多くの指標が公表されている。7つのテーマの中で最も関心が低かった気候変動とエネルギーについては、開示データが最小限に留められた。
【参照ページ】SAP Releases Integrated Report 2016 and Files Annual Report on Form 20-F with the U.S. Securities and Exchange Commission
【報告書】SAP Integrated Report 2016
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