コンサルティング世界大手マッキンゼーの研究部門マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(GMI)は2月8日、企業の短期志向と長期志向がもたらす企業業績に与える影響の違いを調査した報告書「Measuring the Economic Impact of Short-termism」を発表した。調査の結果、長期志向の企業は、短期志向の企業より売上、利益、経済利益(EVA)、時価総額の全ての面において上回ったことがわかった。
今回の調査では、米国に上場している大企業と中堅企業615社の2001年から2015年までの財務データが対象となった。短期志向企業と長期志向企業の選別作業では、(1)投資の長期的な安定性、(2)会計ベースではなくキャッシュフローベースの利益追求、(3)利益成長率の安定性、(4)四半期決算でのEPS必達度合いの低さ、(5)EPSより利益を重視、の5つの指標を慎重に用い、短期志向企業群と長期志向企業群の財務データを比較した。
まず、基本的な財務指標比較では、長期志向企業の方が、2001年から2014年までの累積売上が47%高く、売上変動幅も小さかった。同期間の累積利益でも、長期志向企業の方が36%高かった。経済利益(EVA)では長期志向企業の方が81%も高かった。
時価総額の面では、長期志向企業の方が同期間において、一社当たり70億米ドルも高く積み上げた。株主総利回りでも、長期志向企業は2014年までの間に上位10%や上位25%に入る確率が50%も高かった。2008年からの世界金融危機時には長期志向企業のほうが時価総額の下落が大きかったが、回復は速かった。
投資動向では、長期志向企業のほうが投資額が50%多かった。また、長期志向企業は、世界金融危機時にも投資額増加率は8.5%と安定いる一方、短期志向企業は同時期に3.7%の伸びに留まっていた。雇用の面でも、長期志向企業は2001年から2015年までの間に従業員増員数が、短期志向企業に比べ、1社平均で12,000人多かった。このことは、もし短期志向企業が同時期に長期志向経営を行っていたとしたら、全米で500万人の雇用増が生まれた計算となる。
一方、企業に対して行ったアンケート調査では、経営陣の87%が2年以内高い財務業績を挙げなければいけない心理的プレッシャーを感じており、65%が過去5年の間に短期志向プレッシャーが増加していると回答。さらに短期志向企業に選別された企業の経営陣のうち55%は、四半期業績を達成するために、例え価値創造を犠牲にしたとしても、新規プロジェクトのスケジュールを遅らせるだろうと語り、企業経営者は短期志向のプレッシャーを高く受けていることを伺わせた。
今回の調査は、企業経営の長期志向を推進するためにマッキンゼー等が進めているイニシアチブ「FCLT(Focusing Capital on the Long Term)Global」の活動の一環として行われた。FCLT Globalは、マッキンゼーとカナダ年金計画投資運用委員会が2013年に立ち上げた「FCLT」を前身とし、2016年7月にブラックロック、ダウ・ケミカル、タタ・サンズが加わり「FCLT Global」として新たに発足した。今日では、欧州最大の年金基金オランダのAPG、オランダ公的年金基金PGGM、デンマーク公的年金基金ATP、AT&T、BP、ケベック州投資信託銀行、Edelman、シンガポールの政府系ファンドGIC Private、中国のHillhouse Capital Group、欧州運用会社Kempen Capital Management、ニュージランド公的年金基金ニュージーランド・スーパーファンド、オンタリオ州教職員年金基金、インドのPiramal Group、米国ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ、米国ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、米国Sullivan & Cromwell、ユニリーバ、ワシントン州投資運用委員会もメンバーとして参加している。
【参照ページ】Measuring the economic impact of short-termism
【報告書】Measuring the Economic Impact of Short-termism
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