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【人権】欧米企業は何故サプライヤー公開を行うのか~下田屋毅氏の欧州CSR最新動向~

【人権】欧米企業は何故サプライヤー公開を行うのか~下田屋毅氏の欧州CSR最新動向~ 1

 昨今、欧米企業の小売店やアパレル関連のブランド企業が中心にサプライヤーを公開する動きが出てきている。欧米企業でサプライヤーを公開している企業は、ナイキ、GAP、H&M、アディダス、パタゴニア、リーバイス、プーマなどのアパレル産業、ニューバランスやティンバーランドなどの靴産業、マークス&スペンサー、Kマートなどの小売業、またアップルやHPなどの電子機器産業などであり、日本企業ではファーストリテイリング(ユニクロ)が最近サプライヤーを公開することを宣言した。しかしこれらブランド企業が率先して、サプライヤー工場リスト、サプライヤーマップを公開する理由は何故だろうか?

 実はアパレル・ブランド企業が委託する発展途上国のサプライヤーでの強制労働、児童労働が1990年代後半に発覚し、NGO・市民団体が問題視し、2000年頃からこれらブランド企業に、製品を製造する全ての工場名と住所を公開するよう求めてきた経緯がある。

 しかしこれらブランド企業は当初、自主的であろうと、政府の規制であろうとサプライヤーの開示に強く反対していた。しかし欧米におけるNGO・市民社会などの継続した活動や、地方自治体の購買方針の変更などもあり、サプライチェーンの透明性に対する要請やプレッシャーが高まってきた。そしてブランド企業がサプライヤー工場を開示することが、デメリットよりもメリットがあることが分かってきたこともあり、現在のように公開するようになってきている。

 メリットとしては、ブランド企業の透明性を示すことができる点が挙げられ、サプライヤーとの関係性や配慮に自信をもっていることを表すことができる点がある。もちろんメディアやNGOがこれらリストのサプライヤー工場に赴き、法令順守の状況や労働環境などを確認することができてしまうこともあり、これらをデメリットとして捉える考え方もあるかもしれない。しかしブランド企業が現段階でサプライチェーンの全ての工場を完璧にチェックすることは難しいとされている。そこでメディアやNGO、労働機関にサプライヤーを公開することで、透明性を高め、責任の所在をはっきりさせるとともに、問題があればそれらをすぐに是正する姿勢を取っているのである。

 デメリットとしてはこれらブランド企業の競合他社が、リストに掲載されているサプライヤーへ行き、製品調達を依頼できることがある。しかし、ブランド企業によっては公開しているサプライヤーとは関係が深く、工場の生産量のほぼ全てを調達している場合もあり、入り込むのは難しい場合が多い。また生産量の全てを調達していない場合は、他のブランドともサプライヤーを共有することになるが、労働環境改善について協働することを逆に強みにしている部分もある。

 これらのブランド企業は、サプライヤーの公開においてもリーダーシップを発揮し、他企業へも良い影響を与えることを考えているが、これが大手ブランドとしての競争力に上積みとなり、企業責任の取り組みを進めることでさらにブランド力を向上させることができる。

 現段階では、ブランド企業の情報開示は直接のサプライヤーである一次サプライヤーに限定されているが、公開はしていなくとも、実際にはブランド企業は一次サプライヤーだけでなく取引量の多い二次サプライヤーや、カントリーリスクが高い国のサプライヤーをより考慮して管理を行っている。また一次サプライヤーと密接にコミュニケーションを行い協働することで、その上流のサプライヤーにも良い影響を与えることを考えている。これらサプライヤー開示のトレンドは今後最終製品を販売する大手ブランドを中心に徐々に増加していくことが予想される。そしてブランド企業が情報開示を行い透明性を確保することで、サプライヤーのより良い労働環境の確保にもつながっている。つまりサプライチェーンの透明性を高めることで、ブランド企業もより敏感に配慮することが必要となり、もしメディア、NGO、労働機関が、労働者の権利侵害が行われている工場を発見した場合には、ブランド企業が公開したリストからも特定することができ、それらサプライヤーの違反行為を、最終製品を販売するブランド企業の責任として改善を促すこともできるということである。また現状ではもしサプライヤーが違反行為をしていたことが発覚した場合、ブランド企業はこの件を理由にすぐに手を切るのではなく、ブランド企業の責任としてこのサプライヤーを教育し改善させることも市民社会から期待されている。

 このようにサプライヤー工場の違反行為が発見されてしまうことがリスクではなく、見つからないことのリスクを重視しているわけである。自社のサプライヤー管理を透明性を持って、イニシアティブなどを活用して取り組みを進めることは前提条件だが、違反行為が発見されたら、迅速に現状確認を行うとともに、真摯に改善に取り組みを行うことが現在のトレンドになってきている。

【参考】【インタビュー】リーバイ・ストラウス Manuel Baigorri氏「持続可能なサプライチェーンとビジネスの統合」(2016年2月12日)

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下田屋 毅

サステイナビジョン 代表取締役 

ロンドン在住CSR/サステナビリティ・トレーナー

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