米国の主要機関投資家及び運用会社16社は1月31日、投資コミュニティのスチュワードシップ及びコーポレート・ガバナンスの推進するために新たな団体Investor Stewardship Group(ISG)を設立し、同機関が米国機関投資家向けにスチュワードシップとコーポレート・ガバナンスに関する原則を制定したことを発表した。米国では、政府による公定の「スチュワードシップ・コード」や「コーポレートガバナンス・コード」が制定されていない。そのためISGは、今回発表した任意遵守の原則が、実質的な「米国版スチュワードシップ・コード」「米国版コーポレートガバナンス・コード」の役割を果たすことを目指す。
今回開発されたのは、投資コミュニティのスチュワードシップ原則「Stewardship Principles for Institutional Investors」と、上場企業に要望するコーポレートガバナンス原則「Corporate Governance Principles for US Listed Companies」の2つ。両原則に合致する投資ポリシーをすでに制定している、もしくは今回の原則を投資ポリシーとして採用する米国機関投資家や国際的機関投資家は、ISGに署名することができる。また、両原則と整合性のある他国の原則を遵守している国際的機関投資家は、ISGに支持を表明(Endorse)することができる。設立時に16機関(運用資産総額17兆米ドル)の署名及び支持表明が集まり、すでに今日までに追加で10機関の署名及び支持表明が集まっている。
ISG設立時署名機関となったのは12機関。
- ブラックロック
- カリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS)
- 全米教職員保険年金協会(TIAA)インベストメンツ
- ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ
- ワシントン州投資理事会(WSIB)
- フロリダ州運用管理理事会(FSBA)
- MFSインベストメント・マネジメント
- カナダロイヤル銀行グローバル・アセット・マネジメント
- バリューアクト・キャピタル
- バンガード
- ウエリントン・マネージメント
- T. Rowe Price Associates
ISG設立後に署名機関となったのは5機関。
- Barrow, Hanley, Mewhinney & Strauss
- Christopher Reynolds Foundation
- Cove Street Capital
- RAM
- Walden Asset Management
ISG設立時支持表明機関となったのは4機関。
- GICプライベート(シンガポール)
- Legal & General Investment Management(英国)
- MN Netherlands(オランダ)
- PGGM(オランダ)
ISG設立後に支持表明機関となったのは5機関。
- AP1(スウェーデン)
- AP2(スウェーデン)
- AP3(スウェーデン)
- AP4(スウェーデン)
- スタンダード・ライフ・インベストメンツ(英国)
ISGスチュワードシップ原則
- 原則A:機関投資家は、受益者に説明責任を負う
- 原則B:機関投資家は、投資先企業に関してコーポレートガバナンス要素の評価方法を説明すべきである
- 原則C:機関投資家は、議決権代理行使およびエンゲージメントを通じて生じる可能性のある潜在的利益相反の管理方法を原則開示すべきである
- 原則D:機関投資家は、議決権代理行使決定に責任を負い、その決定について助言する第三者機関の活動及び方針を監督すべきである
- 原則E:機関投資家は、企業との見解の相違に建設的かつ実用的な方法で向き合い、解決に努めるべきである。
- 原則F:機関投資家は、コーポレート・ガバナンスおよびスチュワードシップ原則の採択と実践を促すため、必要に応じて協働すべきである。
ISGスチュワードシップ原則では、上記6つの大原則のそれぞれについて、詳細指針が制定されている。
ISGコーポレートガバナンス原則
- 原則1:取締役会は、株主に対して説明責任を負う
- 原則2:株主は、経済的持分に比例した議決権を行使する権利が付与されるべきである
- 原則3:取締役会は、株主に応対し、株主視点を理解するために積極的であるべきである
- 原則4:取締役会は、強力で独立したリーダーシップ構造を持つべきである
- 原則5:取締役会は、その有効性を高めるための体制と慣行を採用すべきである
- 原則6:取締役会は、会社の長期戦略に沿った経営インセンティブ体制を構築すべきである
ISGコーポレートガバナンス原則でも、上記6つの大原則のそれぞれについて、詳細指針が制定されている。
両原則は、2018年1月1日に発効する。ISGは、米国上場企業に対し2018年の株主総会前までに同原則に対応していくことを求めている。
とりわけ注目を集めているのは、コーポレートガバナンス原則2「株主は、経済的持分に比例した議決権を行使する権利が付与されるべきである」の部分。株式については、従来は一株につき平等の議決権が与えられるのが通例であったが、昨今米国のベンチャー企業を中心に、創業者等が会社支配権を保持するため、一株当たりの議決権が異なる「議決権種類株式」の発行が増えてきている。例えば、米フェイスブックでは創業者であるマーク・ザッカーバーグCEOが一株当たり10議決権を持つ種類株式を保有。米グーグルも同様に、創業者が一株当たり10議決権を持つ「多議決権種類株式」を保有している。米ゲーム会社Zyngaでは創業者が一株当たり70議決権、米グルーポンは創業者が一株当たり150議決権を持っている。
米証券取引委員会(SEC)は1988年、自己規制機関(証券取引所)に一株一議決権以上の議決権を有する新株を発行した会社の株式の上場および取引を禁じる規則19c-4を採択したものの、1990年に米有力企業による経済団体ビジネス・ラウンドテーブルに訴えられた裁判で敗訴、規則19c-4を撤回した。しかし、今回ISGは、自主的ルールという形で、規則19c-4と同等の内容を盛り込み、米上場企業に対し圧力をかけていく考えだ。
【参照ページ】Unveils Framework of Guiding Principles with Expectation of Long-Term Value Creation, Investor Protection$17 Trillion in AUM Represented by U.S. and International Investors
【スチュワードシップ原則】Stewardship Principles
【コーポレートガバナンス原則】Corporate Governance Principles
【機関サイト】ISG
【参考ページ】Investor Stewardship Group Launches Stewardship Framework for 2018
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