国際労働機関(ILO)は12月15日、2年毎に発表している「世界賃金報告」の2016-17年版を公表した。同報告書の発行は5回目。今回の報告からは、世界全体の賃金上昇率が著しく失速してきていることや、賃金格差の拡大動向では国ごとに大きな差が出てきていることがわかった。また、国際的な関心が高まる各国の賃金格差の背景についても定量的な分析が発表された。
毎回の世界賃金報告のトップを飾っている世界の賃金上昇率では今年は悲観的な内容となった。2008年から2009年にかけての世界金融危機以降、新興国を初め世界の賃金は大きく上昇してきたが、それに陰りが見えてきている。2012年時点では世界賃金上昇率は2.5%だったが、2015年時点では1.7%に減速。中でも依然賃金上昇率の高い中国を除いた数値では、世界賃金上昇率は2012年の1.6%から2015年の0.9%へと大きく失速してきている。ILOは、賃金上昇率の低下は世界の経済成長率を鈍化させる大きな要因になると見ており、対策の必要があると警鐘を鳴らしている。
とりわけG20の新興国の賃金上昇率の落ち込みが大きい。G20新興国の賃金上昇率は2012年の6.6%から2.5%へと大きく減速した一方、G20先進国の賃金上昇率は2012年の0.2%から2015年の1.7%と上昇。1.7%という数値は過去10年で最も高い値となった。しかし、さらに細かく国別で見ると傾向は大きく変わり、2006年から2015年までの賃金変動率は、G20先進国の中でも、韓国が12%、オーストラリア10%、カナダ9%、ドイツ7%、フランス6%、米国5%と上昇率が高いのに対し、日本はマイナス2%、イタリアマイナス6%、英国マイナス7%と賃金が減少していた。新興国では中国とインドが依然高い上昇率を誇っている。
(出所)世界賃金報告 2016-17年版
国内の賃金格差では、もともと賃金格差の大きい米国や韓国ではさらに格差が拡大しており、それ以外でも多くの国で賃金格差の拡大傾向が見られた。一方、賃金格差が縮小している主要国はフランス、スペイン、日本、イタリアなどだが、縮小の割合は微減といった小さなものだった。
(出所)世界賃金報告 2016-17年版
また、賃金格差の分析では、かつては調査において国や企業に対して平均従業員数や平均賃金しか聞いてこなかったため賃金分布などが見えていなかったが、最近の調査では分布データも集まってきており、急速に背景分析のレベルが上がってきている。今回の報告でも企業内賃金格差の観点から初めて分析を実施した。その結果、企業内部での賃金格差は、賃金水準が高い企業の方が高いことが明らかとなってきた。企業内の高額給与者トップ1%と最も給与が低い人の差は、企業全体の給与水準が低い企業では5倍であったのに対し、給与水準が高い企業では120倍の差があった。このことは、投資会社など給与水準が高い企業のCEOが数十億円、数百億円という規模の給与を獲得していることなどからも状況が想像できる。また、企業内賃金格差は、先進国よりも新興国のほうが大きいこともわかった。
性別と賃金格差の分析では、女性の平均賃金が低いことと同時に、同じ役職についていても女性の賃金が低いという結果も出た。
ILOは、今後の対策として、最低賃金の上昇や団体交渉強化などによる低い賃金所得者の給与の引き上げ、企業内部の努力による経営陣の給与の引き下げ、労働生産性向上による全体給与の引き上げ、性別や職制などによる不当な賃金格差の是正を挙げた。
【参照ページ】Global wage growth falls to its lowest level in four years
【報告書】Global Wage Report 2016/17
Sustainable Japanの特長
Sustainable Japanは、サステナビリティ・ESGに関する
様々な情報収集を効率化できる専門メディアです。
- 時価総額上位100社の96%が登録済
- 業界第一人者が編集長
- 7記事/日程度追加、合計11,000以上の記事を読める
- 重要ニュースをウェビナーで分かりやすく解説※1
さらに詳しく ログインする※1:重要ニュース解説ウェビナー「SJダイジェスト」。詳細はこちら