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【EU】欧州委、エネルギー政策パッケージ発表。再エネの大規模推進とともに容量メカニズムを問題視

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 EUの欧州委員会は11月30日、気候変動と再生可能エネルギー分野での今後の政策案をまとめた包括的政策パッケージ「Clean Energy For All Europeans package」を発表した。パッケージでは、2030年までに二酸化炭素排出量料を1990年比で40%削減することをあらためて確認。これを達成するため、再生可能エネルギーの発展やEU加盟国のエネルギー政策を徹底することなどを含む大きく踏み込んだ政策案を提示した。とりわけ、電力供給安定化のためにEU加盟国で導入が進んでいる「容量メカニズム」については問題が大きいとし、加盟国に改革を求める内容となった。

 パッケージの全貌は膨大な領域に及ぶ。欧州委員会の発表によると、政策パッケージは、「電力市場改革」「省エネEU規則改正」「省エネビルディング改革」「エコデザイン」「再生可能エネルギー・バイオエネルギー改革」「ガバナンス改革」「エネルギー価格・コスト改革」「エネルギー基金改革」「イノベーション改革」「交通・輸送改革」の10分野で構成。改革内容を示す文書は総計1,000ページを超え、今後各分野でEU規則やEU指令の制定を目指す。この領域横断の政策パッケージにおいて、欧州委員会は全体目標を、(1)エネルギー効率化の最優先化、(2)再生可能エネルギー分野を国際的にリード、(3)消費者に適正なエネルギーを提供、の3つと定めた。

 エネルギー効率化の分野では、EU加盟国は2014年に、2030年までに27%の省エネ実現で合意しているが、欧州委員会はこれでは不十分としてすでに2030年までに30%の省エネ実現が必要だと提言してきた。今回もその必要性に再度言及、達成に向けさらに700億ユーロの経済投資が必要だとし、それによりGDPの押し上げ効果とEU規模で40万人の雇用創出効果があるとした。EUでは今年、発電事業者や配送電事業者に毎年1.5%のエネルギー消費量を削減することを定めるEU指令761「エネルギー効率指令」が制定されたが、今回は新たにこの規定を2020年以降も継続していくべきだとした。また、EUのエネルギー消費量の40%を占める不動産分野では、75%以上の物件がエネルギー効率が悪いと指摘。EUでは毎年1%の物件でエネルギー効率を向上させる改築が進んでいるが、それではスピードが遅すぎるとし、今回エネルギーリノベーションの速度を上げるための政策を掲げた。その手始めとして、2017年春までに学校や病因などの公共施設で、エネルギー消費量削減のための取組ガイドラインの改訂版を示していくとした。同時に製品分野ではエネルギー消費量削減を更に求めるため、既存の製品エコラベル基準を数年内に改訂していくことも発表した。

 再生可能エネルギーの発展では、欧州委員会は2030年までにEU圏のエネルギー消費量に占める再生可能エネルギーを27%にまで上げる目標を制定しているものの、EU加盟国のレベルではこの目標は定められておらず、再生可能エネルギーの推進に向けて全力を挙げるというような間接的な目標しか定められていない。今回欧州委員会は、今後、加盟国がEU全域の目標の実現に真剣に取り組んでいるかの監視をしていくとし、目標と実施レベルに差がある国に対しては是正を要求していく姿勢を見せた。また、再生可能エネルギー割合の向上に向けては、現在多くの加盟国の電力市場では、再生可能エネルギー電力が「二流電力」のように扱われているが、この現状の改革が不可欠だとし、あらゆる手段を通じて再生可能エネルギー「差別」の是正を要求する法整備を欧州委員会として実現させる考えを示した。一方、再生可能エネルギーを「特別好待遇」する既存政策は縮小させる方向性も示し、風力や太陽光発電を優先的に電力網に流すことを義務化する「優先給電システム」について既存発電所分は維持するとしつつ、新規発電所分は除外することが盛り込まれた。この点に関しては、化石燃料業界は歓迎し、環境NGOからは「政策後退だ」と非難が上がっている。

 また、再生可能エネルギーの新規分野では、再生可能エネルギーの熱源としての活用や、バイオマスエネルギーの発展にも言及。特にバイオマスでは、食品廃棄物をエネルギー源として活用することを減らしていくEUの方向性や、木材資源をエネルギー資源として依存することの懸念を前提とし、新たなバイオマス資源の開発やバイオマスエネルギー変換効率が重要だとした。また、民間投資を再生可能エネルギー分野に呼び込み続けていくためには、再生可能エネルギー政策の安定性が不可欠とし、EU加盟国に長期的な再生可能エネルギー開発政策を定めることを求めていくとした。

 消費者に適正なエネルギーを供給するという目標ではより複雑な政策案が示された。一つ目の柱はスマートメーターの導入。これにより、消費者が電力消費量と電力価格を細かい時間単位で可視化できるようにし、消費者がそれに応じて電力会社をより賢く選択できるよう支援していく。それに伴い、電力会社の変更に伴う変更手数料の課金を電力会社に対し禁じる措置も講じていく。さらに、法人や個人が自前の発電を行っていく「分散型発電」の普及を促進し、消費者が既存の電力事業者に依存する状況を打破、自前で発電、蓄電、売電などを実施していく制度づくりを目指す。新築住宅のすべてに電気自動車のチャージングポイントを設置する案も盛り込まれた。また、欧州委員会は各加盟国内において電力小売価格が高騰しすることで社会的弱者が困窮する事態に目を光らせるガバナンスづくりも表明した。

 今回欧州委員会が発表した政策パッケージでは、「エネルギー連合(Energy Union)」という構想が強く意識されている。EUでのエネルギー政策は、これまで各加盟国が独自に展開してきた。そのため、再生可能エネルギーの推進度合いや、原子力発電に対する考え方、電力市場規制などは、加盟国毎に大きく異なっている。これを欧州全体で政策を揃えていこうというのが「エネルギー連合」だ。このエネルギー連合は、ユンケル欧州委員会委員長(2014年から2019年まで)率いる現欧州委員会が優先課題と定める10分野の一つに定められてもいる。「エネルギー連合」では、エネルギー政策統合だけでなく、エネルギー市場の統合も意識されており、今回の政策パッケージ案ではEUのエネルギー市場を統合することでエネルギー市場の自由競争を加速化させ電力価格を下げていくとともに、EU規模での電力安定供給を実現することで不要な予備電源を削減していくことも目標としている。

 そこで今回大きくクローズアップされいてるのが「容量メカニズム(Capacity Mechanism)」政策だ。容量メカニズムは比較的新しい政策用語。欧米では再生可能エネルギーの導入が進む一方、天候条件などにより再生可能エネルギーの発電量は安定しづらいことから、稼働しない火力発電などを予備電源として確保しておくという政策を採用している国が少なくない。通常の電力ビジネスでは、発電量に応じて発電収入が得られるが、稼働させない予備電源はこの発電収入が得られず市場原理だけでは維持できないため、政府などが「発電容量」すなわち発電能力に応じて発電事業者に助成金を付与するなどの対策が採られており、これを「容量メカニズム」と呼び、日本でも現在政府が導入を検討している。この「容量メカニズム」のもとでは、社会全体の発電容量は増えるものの、既存の火力発電所などを廃止せずに温存しておくことにもつながっており、「火力発電所の延命政策だ」と非難する声も多い。今回欧州委員会は、クリーンエネルギーを実現させるため各国が採用している「容量メカニズム」を問題視し、EU加盟国に対して、必要性を再検討し予備電源を減少させることを要求した。その理由として、容量メカニズムが、石油や石炭などの化石燃料に対する助成金政策になっていると言明、とりわけ石炭火力発電に依存する容量メカニズム政策を禁止していく考えを明らかにした。同時に、新設発電所には、現在欧州投資銀行の実施基準となっているキロワット当たりの二酸化炭素排出量を550gに制限することも盛り込まれた。だが、電力事業者に対して配慮も示し、既存の火力発電所280施設と新規建設中の13施設についてはこのキロワット当たり二酸化炭素排出量制限をすぐには適用しないことも表明した。

 欧州委員会は今回提案した政策パッケージを立法化し遂行することで、今後10年にわたり年間1,770億ユーロ規模の公共投資と民間投資の需要が生まれ、さらに90万人以上の雇用創出、GDP1%の上昇が実現できると経済的インパクトも強調。単なる環境政策ではなく、経済政策として位置づけていく考えも明確にした。

【参照ページ】COMMUNICATION FROM THE COMMISSION Clean Energy For All Europeans
【参照ページ】Clean Energy for All Europeans – unlocking Europe's growth potential
【参照ページ】State aid: Sector Inquiry report gives guidance on capacity mechanisms
【政策パッケージ】Commission proposes new rules for consumer centred clean energy transition
【容量メカニズムに関する最終報告】REPORT FROM THE COMMISSION Final Report of the Sector Inquiry on Capacity Mechanisms
【容量メカニズム】経済産業省 容量メカニズムについて
【容量メカニズム】容量メカニズムの選択と導入に関する考察

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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