EUの欧州議会は11月24日、欧州企業年金(IORP)指令の改正案(IORP II)を賛成512、反対77、棄権40の賛成多数で可決した。IORP IIの目玉は、企業年金運用プロセスにESGを組み入れることを求めた点にある。一方、審議の過程でもうひとつの目玉であった、企業年金商品を提供している保険会社に対して自己資本規制(ソルベンシー2)を課す内容は、保険会社からの反発も強く今回は導入が見送られた。
IORPは、EU市場が統一される中、企業年金基金のEU内越境組成や越境投資運用を促進するために2003年に制定されたEU指令で、現在は企業年金基金のガバナンスや透明性を高め、長期投資を支援していく内容などを盛り込んでいる。EU指令とは、EU法のひとつで、EU指令が制定されると、EU加盟国は指令内容を実質的に実現する国内法の制定が義務化される。EUの立法プロセスでは、欧州議会で過半数の賛成を得て通過した法案は、EU加盟国の閣僚で構成されるEU理事会に送られる。そしてEU理事会が特定多数決(EU条約が定める条件を満たす特別な多数決)で同法案を採択するとEU法として成立する。今回のIORP IIも、今後EU理事会で審議され、採択を得るプロセスに入る。同法案が成立するとEU加盟国は国内法を整備する義務が生じるが、同法案は国内法制定までの猶予期間を24ヶ月間と定めている。
IORP IIで定められたESGに関する規定は複数に及ぶ。まず、投資運用プロセスの中でESG要素を考慮することを定めた。とりわけESG要素として、「気候変動に関わるリスク、資源利用や環境に関するリスク、社会リスク、法規制変更により資産価値が毀損するリスク」を例示しており、いわゆる「座礁資産」の概念を明確に盛り込んだ。また、EU加盟国に対して企業年金基金が負う受託者責任の中に、ESGに関する善管注意義務を含めるよう求めた。さらに、法案の備考では、ESG情報開示の基準として国連責任投資原則(PRI)が定める6原則について初めて言及し、PRIの参照を要望した。
IORP IIは、その他、企業がEU域内の複数国で事業展開することが増えて生きている中、企業年金の国境を超えたEU化を推進するため、労働法や年金法など国内法の協調を求めていく内容なども盛り込んだ。
欧州議会によるとIORP IIは、総計2.5兆ユーロ(約300兆円)の資産を有する約125,000の企業年金が対象となる。これは、EU圏の労働人口の約20%を占める75万人の年金資産に相当する額だ。
【参考ページ】European Parliament passes revised IORP Directive
【参考ページ】Top 1000: Faint praise for IORP II compromise
【法案概要】Revision of the Institutions for Occupational Retirement Provision Directive (IORP II)
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