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【アメリカ】二酸化炭素をエタノールに変換する技術が偶然発見。鍵はナノスケール構造の炭素

ethanol

 米国エネルギー省所属のオークリッジ国立研究所(ORNL)は10月12日、同研究所のAdam Rondinone研究員が率いるチームが、二酸化炭素をエタノールに高効率で変換する方法を発見したと発表した。二酸化炭素は気候変動などをもたらす「社会の悪者」として近年扱われる一方、エタノールは自動車燃料などエネルギー源として活用できる。社会の悪者をエネルギー源に変換する方法を発見したという歴史的なニュースは、海外の他日本のオンラインニュースサイトも大きく扱った。

 二酸化炭素をエタノールに変換するという発想そのものは新しくはない。これまでも、藻や光触媒などを通じた方法が開発されてきたが、今回の手法の革新性は常温でしかも高効率で二酸化炭素をエタノールに変換できる点。二酸化炭素からエネルギー源を生成するために、高温や低温など高いエネルギーが要求される特殊な環境下しか実現できない手法は、エネルギーを用いてエネルギーを生成することとなり、あまり実社会としては嬉しくない。そのため常温下で実現できるというのは非常に大きな意味を持つ。また、変換するための化学反応を起こす触媒に、プラチナや金など高価な素材が必要であれば、費用がかかりすぎるための実用性の面で問題があるが、今回用いられている触媒はなんと安価な銅。経済性にも優れている点が、今回の手法が画期的なもう一つの理由だ。

 この大発見の要は、銅を含むその特殊な触媒にある。開発された触媒は、銅、先尖形状の炭素、窒素を混合して作られている。この触媒を、水に二酸化炭素を溶かした溶液に入れ電圧をかけると、複雑な化学反応が発生し、エタノールが生成されるという。産生効率を示す「ファラデー効率」の値は63%で、副産物も比較的少ない。

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(出所)Chemistry Select

 触媒の中でも最も大きなカギを握るのが、「先の尖った炭素」だ。先の尖った炭素はミクロのレベルで非常に特殊な分子構造をした炭素複合体。通常自然界では炭素が先尖形状を自ずと生成することはないが、ナノレベルの研究の結果、Rondinone氏率いるチームは、この「原子レベルで先の尖った形態を持つ炭素」を生成することに成功した。先の尖った炭素は、まさに避雷針のような働きをし、先端部に大きな電界を形成、非常に大きな電力を保有できるという特徴を持つ。さらに驚くべきことに、Rondinone氏のチームは、この「先の尖った炭素」を別の物質の研究過程で偶然生成に成功したという。チームは、ナノレベル化学を専門としており、もともとはグラフェンという1原子の厚さしかない非常に薄い結合炭素原子シートを開発しようとしていたが、それには失敗。替わりに研究室のマシーンから出来上がったのが、この「先の尖った炭素」だった。この偶然の発見にはRondinone氏自身も驚いている。二酸化炭素をエネルギーに戻すカギが「炭素」だったという点も非常に興味深い。余談だが、科学にはこういう驚きの発見が多く本当に面白いと思う。

 研究チームの論文では、結論の部分で、「(生成過程で必要な)過電圧(を発生させるのに必要なコストを考えると)、経済的な実行可能性はない」と、まだ課題があることも示しているが、この過電圧についても「適切な電解質を用い、水素製造を他の触媒と分離すれば、過電圧は低下できるかもしれない」と改善の方向性も示した。チームは今後も実用化に向け研究を進めていくという。

 このように二酸化炭素を資源に変える研究は世界各地で進んでいる。東芝も2015年9月に、二酸化炭素をエチレングリコールに変換する人工光合成向け分子触媒を開発したと発表。エチレングリコールは、ペットボトルやポリエステル繊維・樹脂の原料にも使用できる汎用性の高い工業原料。この二酸化炭素を工業原料に変換する技術では、ファラデー効率80%という非常に高い数値を叩き出している。同社も2020年代後半の実用化を目標にし実用化に向けた研究か開発を進めている。

【参照ページ】Nano-spike catalysts convert carbon dioxide directly into ethanol
【論文】High-Selectivity Electrochemical Conversion of CO2 to Ethanol using a Copper Nanoparticle/N-Doped Graphene Electrode
【参照ページ】二酸化炭素をエチレングリコールに変換する人工光合成向け分子触媒を開発

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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